with my little book, I'll be the parson.1


狂月の刻、粘滑なる首切り人よ

遥場にありて其が錐穿つ

散り逝くは美しき花たちよ

ちでたる月の叫びや聞こえぬ


*****


さわさわと木々がざわめき、花々が揺れる美しい草原の木の下で目が覚めた。風が吹く度、影は形を変え、きらきらとした光を手元に落とした。こんなにも優しく穏やかな風に撫でられ美しい風景に思わず涙が零れそうになった。
 (ここは———どこだろう)
そう、私はこんな場所は知らない。そうぼんやり考え、次の瞬間背中に冷たいものが走った。
(私、誰だろう。何も、覚えていない)
そう。ぽっかりと、自分というものが抜け落ちていた。自分の姿を見る。見慣れないワンピースに身を包んでいて、(趣味じゃないな)とそんなことを思う。一つ言えるのは、元居た場所は少なくともこんな大自然に囲まれた環境ではなかった、それだけは何となく覚えている。
 ひらひらと踊る青い蝶が目に留まった。それはゆっくりと何かに止まる。
私は腰を上げそれを確認しに向かった。ふわりと白や黄色の蝶が舞い空へ還る。まるで花弁が風に舞い上がるかのように。
歩を進め蝶が止まった先には、美しい少年が眠っていた。真っ白な髪に真っ白な肌。長い睫も白く、その唇だけがまるで紅を塗ったかのように薔薇色で、細やかな刺繍の施された美しい燕尾服を纏っていた。
 ぱちり。その目が開く。
その瞳も薔薇色で、彼に止まっていた青い蝶がふわりと空に飛んだ。
 「ああ、急いで帰らなくちゃ」
彼は飛び起き、懐中時計を確認すると走り出した。

to be continued…

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