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Stones alive complex (Strawberry Quartz)

この日に限り、正論は正しくなかった。

「そのウエディング、ちょっとウェイティング!」

三日三晩かけて熟成した決めゼリフは韻を踏んだがバナナの皮も踏んだのか鮮やかにスベり、彼女のハートをスリープモードに入れた。やっぱし水道水をワインに変えるのは不可能なのか?不本意な政略結婚を引き止める重みとしては、声質にヒッグス粒子がまるで足りてなかったらしい。差し出したストロベリークォーツの指輪も、虚しく重みを失う。

All day in the life.

「たとえ、君が来なくても!
ずっと思い出の場所で待ってるから!」

前提条件からして矛盾だらけのありがち宣言はシナリオに忠実に、スーパー銭湯の男湯でサウナの湯気より淡く熱く幕を閉じようとしている。
彼女はここへ、まだ来ない。
いや、来れないのかもしれない。
ふたりの思い出より、自分的な思い出の場所を待ち合わせ場所として選択してるのが原因のひとつか?
来てくれでなく、来れるもんなら来てみやがれと伝わってるのかもしれない。

「ネアカデルタール人とは・・・
アイウォンチューテクノロジーの発達過程における、亜種なんだ」

隣で腕組みし熱波に耐えてる見知らぬおじさんが、話しかけてきた。口調には思わず身を引く威厳がある。
腰にタオルだけ巻いたむき身の胸板に、宇宙艦隊のバッヂを付けていた。
彼は誰に語りかけるでもなく、言葉を繋ぐ。

「社会そのものが反社会的になってる時代に、本来の反社会的勢力ですら非社会的個人のネアカデルタール人たちに内側から喰われはじめているんだよ」

「その胸のかっこいいバッヂって、肉に刺してるんですか?
それとも両面テープ?
この熱波の中でも剥がれないとこから察するとやっぱ、直に針ですよね?げああ・・・」

「我々ホメサピエンスは、新時代が反と非のアンビバレントで転換してゆく様を、これからも未来から静観するスタンスだ。
差し迫れば、ウォンチューよりニーヂューテクノロジーがネアカデールとアポストラロピテクスとの交配で生まれることになるだろう。
大いに期待しているよ。
では。
君が来ても来なくても、思い出の世紀で待ってるからな」

「え?
僕って、そのアポなんですか?」

彼はニッと笑い、わざとらしく腰のタオルを床に落として立ち上がった。
背筋を伸ばし「チャーリー、転送してくれ」そうバッヂへ呼びかけ、湯気よりキラキラ輝く量子化をされて、直肉かどうかもついぞ答えず、いずこかへ消え去った。

床のタオルを遠巻きにまたいで、すぐにサウナから飛び出る。

直肉のおじさんが言ってくれたお陰で!
身体も彼女への想いも、充分にイチゴ色へ染められた。

やはり君は、永遠に僕の一期一会なんだ!
イチゴカラーのシャイニングなんだ!
再認識した溺愛レベルが、スタンリー・キューブリックのサイコパシーに達しつつある。

ストロベリークォーツは愛と美を象徴する石で、女性にとっては最高の守り石の一つだ。
人を愛する気持ちを高め、積極性を増すサポートとなり、それによって愛を呼び込む力をニーヂューテクノロジーに基づき輝かせる。

一刻も早く彼女のエンターキーを洒落たワードで連打して、スリープモードを解除するんだ!
他の男にCTRL+Sされる前に!

Sは、StrawberryのSだから深読みしないようにね!

(おわり)

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