Stones alive complex (Pink Tourmaline)
むしろ、注意の散漫から入る瞑想深度にこそ幾多のシグナルが回遊している。なぜなら集中と忘我とは、ベクトルが逆さだから。生真面目に集中してしまうと「今」に固定されてしまう。極度な気まぐれで散漫すればするほど、知覚は限りなく薄く時間軸へ拡張できる。
とある深度に馴染みのある裂けた海溝を見つけ、さらに潜り込む。
これは生に対する真摯な探究心というよりは、真理に対する野次馬騒ぎな好奇心。
海溝に仕掛けておいた当てずっぽうフィルターには、黒板にぶつけたチョークみたいな信号がたくさんかかっていた。
飛び散ってるフォントの断片。
つぎはぎをパッチワークして、読み取り精度を高める。
まあ。
読みとれるも読みとれないもそれは、
どんな審神者にもかけようがない寝言の領域。
ここは、そういうところ。
凡庸な不心得者しか来れない聖域。
フィルターの隅っこに、ピチピチと跳ねてるものがあった。
金魚のお姫様のような赤血球だ。
荒く息継ぎをしている。
鼻からでも口から、でもなく。
酸素を、でもない。
フィルターに細切れで引っかかっていたフォントの欠片を、残らず肌へ吸い込んでいる。
欠片はまとめられ彼女の変圧系に通され、コミュニケーション可能なレベルに具象化できたようだ。
(お行儀が悪い人たちの、落し物を探し回っていたの・・・
そしたら、いったいなんなのよ、この網は?!)
クレームもついでに具象化されてる。
「お気の毒に・・・
たぶんそいつは、どっかの野次馬が仕掛けたタチの悪いフィルターだろうなあ。
ところで。
お行儀の悪い人たちって?」
(12匹の猿神よ・・・)
よく分からんメッセージは、ひとまず考えずにとにかくスルー。
ここは、そういうところ。それがコツ。
「落し物って?」
(ぬるぬるのナマズよ・・・)
「あー。
その意味は、なんとなく分かってきたよ、最近。
てことは。
猿神というのは、この出エジプト記をなぞって再演してる人たちのことかな?」
(ほどいてくれない、この網を・・・!)
「てことは。
これから段階的に続くフェーズの目的も、
出エジプト記と同義っぽいってことかな?」
(ほどいてくれない、この網を・・・!!)
「はいはい。
具象を保ってるのは、やたらとブドウ糖を消耗するよね。
すぐ抽象へ戻してあげるよ」
フィルターの網目に絡まった彼女の足首を、優しく外してやる。
金魚姫は、抽象へと戻り。
潤いのある紅を塗った唇の形になると、くるくる回り、海溝の底の方へ泳ぎ去った。
神話の基本構造を動かす歯車が、また第一章から回り始めているらしい。
(おわり)
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