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Stones alive complex (Amethyst)


スピードメーターの針は、
時速200テラピクセルあたりで、細かく震えている。

脳下垂体町から仙骨村へと続く、アウトバーン。
摩天楼が並ぶ首都から未開の僻地を繋ぐ、速度無制限のルート。自律神経系その下り車線を疾走しているマシンは、彼の愛車デレリアンDMC-13改。
理性の中枢都市と野生の根幹地区を、緊急の依頼を受けてすっ飛んでるチーターだ。

「仙骨村の村役場か?
こちらは運び屋なんだけど・・・」

運び屋は言い、マシンのインパネにリンクされてる電話の音量を上げた。

「いまそっちへ、最高速で向かってる。
え~と、今日は土曜日でと。
いまは夜の・・・九時三十七分。
ちょうど甲状腺インターチェンジを通過したところだ。
今夜の高速はちょっと脳波からのノイズで、ぼんやりとしたモヤが出てる。視界はあんまり良くない。
この身体の持ち主は、珍しく飲みすぎてるようだ。
よって。
最前は尽くすが、依頼品の到着が若干遅れるかもしれないことを伝えておく」

突然、持ち主の背骨が弓なりに曲がった。
運び屋は、大きくカーブし始めた神経の道から飛び出さないように、かつ、速度を落とさないようにステアリングを熟練の技で操作する。
さらに持ち主の身体は、奇妙なトーンの引き笑いを始めたらしく道路が複雑にバウンドを始めた。
デレリアンのタイヤが何度も宙に浮くが、運び屋は経験に裏打ちされた野生の勘で、車体の正確な向きをキープした。

「あのさあ・・・」

負荷に思わず愚痴もこぼれてくる、くいしばる奥歯の隙間から。
アクセルを床へめり込ませつつ、コーナーリングGに体重を支えている運び屋の右のふくらはぎがつってきた。

「そもそもからして。
自己肯定感が低いってのは、
自己肯定感を高めてはいけないと暗にほのめかす情操教育をされてきた結果だろ!
自信に満ち溢れた真面目でおとなしい子になれって、その方針は矛盾まみれだ!
なのに!」

デレリアンの後部座席に置かれた依頼品のボックスが激しく振動していて、中にびっしり詰められたテストステロンのカプセルがガタガタ音を鳴らしている。
身体の外界から背骨へ伝わってくるはしゃいだ声から推察すると、持ち主の横には同年代の男が四人座ってて、とち狂ったようにはしゃいでおり。
彼らの正面には同年代の女が五人、おしとやかに並んでる。

「通常の理性的自己肯定感は恐ろしく低いのに!
こういう飲み会のときの野性的自己肯定感だけは、なんで常軌を逸して高くなるんだよ!」

のたうつ背骨の神経系高速道路は、ヒートアップした血圧でアスファルトが焼けただれている。

しかし。
ホルモンの運び屋の愛車、デレリアンはビクともしない。
なぜなら。
動衝性が高いタイヤが装着されているし、ボディの
欲性は過剰なほど強いうえに、エンジン設計は渉交性の技術が優れているからであり漢字を逆から読まないでほしい。

脊椎と並行するセンターラインの静脈から、紫色の陽炎が立ちのぼっている。
それは運び屋が進む先のルートを脈打つ蜃気楼へと変えているが、目的の仙骨村が近づいたしるしに、尾てい骨山がおぼろげに見えてきた。

(おわり)

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