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Stones alive complex (Rhodochrosite)

さて。そろそろかなあ。

剣山へ巻きつけていたあぐらを解き、酒呑童子は山頂に立ち上がった。

見つめていた西方の空で、予兆の雲が浮く。

思念の波長が正確に読み取れるのは、思念で形を成している妖怪のみ。可視範囲と同じく、ダークマター可感範囲のライブズ帯と共鳴できる。

清姫は御所に座して、相変わらずスマホを高速フリックしている。いちばんお手ごろで、レビュー評価が高い料亭の検索にかかりっきりなようで、予兆の雲へと回す神経が無さそう。

(妖気の源となる妖酒を、ぼちぼち仕込み始めるとするか)

酒呑童子が飲食物管理担当の清姫に声をかけようとした、その時。
彼の足の小指をつんつこ、こづく者があった。

「おーい!
みんなの塩梅はどうだい?」

白袴をしゅっと着込んだ細目の男が、足元にいた。
童子の顔を、まぶたの隙間から鋭く光る眼球で見あげている。

その正体を認知したとたん仰天して、
うぎゃっと足を避ける童子。

「き、き、貴様は!
あ・・・あ・・・への・・・!」

ひどく怯えながらも、威圧の視線で男を射る酒呑童子。
男は笏で、童子の小指をばしっと叩く。

「おっとっと!待て待て!
私の名をここでは、決して呼ぶな。
本名を呼ばれたら、私はここで職務を成さねばならなくなるのだよ!
本日は、プライベートな立場で来ているのだ!」

その人間の男はにっこり笑い、手に持ったエコバックを高く差し上げた。

「君らに差し入れを持ってきたぞ!
カレーまんとファミチキだ。
たんと精をつけて欲しくてな」

「なんぞ?なんぞよ?
貴様にとって、わしらは宿敵である妖怪怪異!
まさか雁首揃えてる我らを、封魔の術で一網打尽にする企てか?
その食い物で油断させて!」

からからと笑う人間の男。

「そんな企てなぞ、毛頭ないよ。
君らが護国の意図により、ここで気張っておるのはすでに知っている。
普段は邪な波動を撒く者どもとて、さすがに土台となる国体の観念が転覆してしまったら、元も子も無くなるからな。
君らはアイデンティティレベルから、消滅してしまうのは確実だ」

「むむう。
万事、お見通しか・・・」

「カミはカミに似せてヒトを創造したが、
ヒトはヒトに似せてカミを想像した。
かなり御都合主義に曲解した感じで・・・
そういう理では、君らはその想像物と同種の成り立ちなのだ。陽の国の旗は、火の柱を真上から見た象徴。地政学的な存在理由も、科学立国の存在意義も、太陽崇拝の理念も、古代から秘められてきた宿命がこの事象で、晴れて明らかになるのかもな。
それを踏まえ、今回の事態。
本質論として、君らが眷族とならざるおえぬのは道理だ。
ゆえに、我らは同盟なのだ」

「小難しい屁理屈で貴様はいっつも、わしらを煙に巻いて使役させるし!
つーか!
このミッションは本来、貴様らの業務だろが!
先手くらい撃てや!」

「まさに、御指摘のとおりだ。
しかし残念にも、我らは陰陽道的な律法に則った行動しかできない。
道理が、まだ動かないのだ。
発動条件が不十分なのだ。
基本、専守防衛。
私とて、この理に従うしかない」

「しょーむな!
しょーむなさすぎるぞ、貴様はっ!
それでも陰陽道界のスティーブ・ジョブスと呼ばれた奇才の持ち主か?」

「そう呼ばれてるとは、初耳学なんだが・・・
ま、ともかく。
ここでの私のことは裏アカウントで、
亜火ノ聖命とでも呼んでくれ」

「二文字目の響きが、しょーむないぞ・・・」

遠く高千穂にぷてってしゃがんでるガルーダが、小鼻をくんくんさせた。
亜火ノ聖命へ、手にした槍をおーい!と振った。

「そこの小っさい男子!
カレーまんは、あたしにちょうだい!」

聖命は微笑んでる細目をその槍へ向けたとたん、
45度のつり目にした。

(うわー。
ありゃ、インドラの矢やんか・・・
火星文明を一撃で砂の海にしたやつや。
ハルマゲドン七回分の威力やん。
あかんあかん!ハイテンションで振り回しとるしーっ!
やっぱ、様子を見に来てよかったわ。
所詮、地頭が足りん妖怪ども。
こやつらの兵力を綿密にチェックして、
威力をプログラムし直さんと・・・現時点で、こいつらこそがいちばんの災厄集団・・・)

(おわり)

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