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Stones alive complex (Rhodochrosite)


ひとりとして。
ただの一度として。

彼女に会った者は、おらず。

もし仮に会えたとしても、その絶対センターばりのカリスマ尊顔美に仰天するやら恐縮するやらで、だれしも減らず口が減ってゆくはずで、初見のときがそれだったなら再見はさらに気まずくなり、以後それがループで続きスピリチュアルディスタンスをとらざるおえない。それがもう何世紀にもなり、いまでは十万七千年間そのままだ。そしてそのあいだずっと、彼女はひとりきりで沈黙の幕屋にこもっていた。形骸化した慣わしでは、彼女の食事として乾鰹や魚、季節野菜、果物、清酒三献のハッピー和食セットが彼女との対面を避けた食事所に毎日用意される。
彼女とっては、そろそろ献立を変えてくれとはだれにも頼めないしチーズバーガーなるものを一度でいいから食してみたいなど、食事所の向こう側に座り控えている人にそれを頼むのは担当違いなだけでなく、その途中に恐れ多きと立てられた三つ重の垣根があるせいでまったく不可能だったのである。

メタファーよ、メタファー。
私は、ただのメタファーなのよ!
だから!
庶民感覚で接してくれていいのに!

ここひと月半ほど。
幕屋と外界との境にある帳(とばり)の向こうには、ひっきりなしに祈願に訪れてきてた一般の完全感覚Believerたちの姿は無く、ヘビーローテーションしてた渦女神楽も響いて来ず。
だったら暇かといえば、代わりに国土ベースの退魔祈祷で平常時よりカロリー消耗が激しい。

だから!
カロリーがやたらと高い現代庶民感覚のものを、食したいのよ!
今の精神運動量なら食しても、メタファーがメタボーにはならないわ!

血統の憑依体を依代に植樹する伝承式を昨年終えてから、彼女が保守作業しているこのパラレルパラドキシカルワールドワイドワンダーウェブ(PPWWWW)は、ディメンションマトリックスのヒエラルキー構成が様々な厄災の形をとってバージョン改変されつつあり、垂直社会構造から水平群生構造に作り替えられている。

せめてもと・・・彼女は思いつく。
茶碗に盛られたほかほかのお米をすくい、オニギリを作ると、平たくした。
それを、ふたつ作る。
間に干物を挟む。

メタファーよ、メタファー。
これは、チーズバーガーのメタファー。
庶民感覚で食していいのよ・・・。

(おわり)

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