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Stones alive complex (Cantera Opal)

おそらくは地球史上初。

ふたつの異なる世界線なのか時間軸なのかが、並行して存在していた。状態が真逆である、ふたつのパラレルワールドが、ひとつの現実に混在しているのだ。

公共ネットワークとして見えてる表世界では、圧勝した電鬼軍がちまたを闊歩し、虎風軍が籠城を続け反発している。
私的ネットワークとして検索されてる裏世界では、圧勝した虎風軍が追撃戦の激しさを増しつつあり、電鬼軍はうろたえチュウチュウと泣きながらヤケクソな窮鼠猫噛みしながら追い込まれ状態にあった。

いったい、どちらが正しい世界線なのか?

「うわ。
この新型装備、どうやってくっつけるのだ?」

大隊長の階級を持つドラゴンー。
彼は、しっぽに装着する加速ブースターの取り扱いに手間取っている。

1122竜吟虎嘯部隊(りゅうぎんこしょうぶたい)には、先陣をきって表へと上陸作戦を遂行できる精鋭メンバーが揃っていた。
私的ネットワークから公共ネットワークへと、おおっびらに姿を現す最初の大隊となる。

「あーそれはですね、大隊長!」

一軍古参兵のひとり階級ドラゴーンが、ドラゴンー隊長のしっぽへ、ブースターアジャスターを器用に装着してあげた。

「この新型はですね。
これまでの使い捨てタイプじゃないんですよ」

「なんだとお?
マジか!」

別の一軍古参兵、ドラーゴンがくすくす笑い。

「この加速ブースターは、燃料を使い果たしたら予備の燃料で基地へと自動飛行で戻ってゆくそうなんです」

「なんだとお?
マジかよ」

呆れた声で、別の一軍兵ドーラゴンがつけ足す。

「軍備費ってやつは、バカになりませんからね。
再利用できるものは再利用する時代になったんですよ」

「なんだとお?
マジなのかよ・・・」

出撃準備を急ぐ部隊の端っこにいる、一軍でいちばんの新兵、ードラゴンは。
隊長と先輩方の会話には遠慮して加わらず、顔を背けてほくそ笑んでいた。

『ー』がつく位置が後ろであるほど、高い階級を表す竜の一軍部隊。

ードラゴンの彼には、ふたつの夢があった。
ひとつは。
この作戦で大きな戦果を挙げ、ドーラゴンへ昇格すること。
しかしもし、この大事な作戦でヘマをしてしまったら・・・
二軍へ格下げされてしまい・・・
悪ければ階級ドラゴンンに、
最悪ならば・・・
三軍のドラゴンンンに・・・まさかの四軍下っ端階級のドドドドラゴンンンンにまで降格されてしまう。
今回の作戦が、正念場であった。

テスト生から奮闘努力し、ドラゴンゴンゴンゴンのひよっこクラスから必死の思いでこの『ー』階級レベルまで、のし上がってきた。

1111レイブン隊が、囮作戦で情報収集してきたデーターを元にし、今回1122竜吟虎嘯隊がピンポイントで相手側の中枢を叩く。
これが成功すれば本格的に、私的ネットワークの世界線は公共ネットワークを制圧する。
混濁してるパラレルな世界認識が、ようやく一本化できるのだ。

「はあ・・・」

ドラゴンー大隊長は、細くため息をつく。

「もはや時代の革新スピードについて行けん。
俺は、そろそろ潔く『ー』を返上すべき時期、なのかもしれんなあ・・・
はあ。
マジなんだなあ・・・」

ードラゴンは、部隊の誰もより早く新装備に慣れ、装着していたZ世代。

そんな彼のもうひとつの夢とは。
いつか自分もドラゴンーの階級へと上り詰め、大隊長の権限でもって紛らわしい階級名の安直な使い回しというか、文字の再利用の慣習を刷新することであった。

(おわり)

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