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Stones alive complex (Sea blue Chalcedony)


スカイツリーを座椅子にし。
夢のうたかたに浮かぶ平将門は、不思議な古事の旅を観ていた。

―――

熊野ですくすく育つ幼きソサノヲは、和歌の才能に恵まれた姉のワカ姫に、歌について尋ねていた。
ちなみに。
ワカ姫姉ちゃんは、元はヒルコ姫という名で。
つい最近まで厄祓いのために流され養父母に育てられていたのだが、実父母の厄が明けたのでアマテル、ツクヨミ、ソサノヲの三人の弟のところへ長女として無事に復帰していた。

そんで。
数年後にはマザコンとかシスコンとかをやたら拗らせるソサノヲは、今のところ無邪気に素直に姉へ問うていた。

「姉ちゃん。
和歌は、なんで五七調にするんや?」

姉はザ長女!的な理知に富んだ口調で答えた。

「和歌はね。
天地のリズムだからなのよ」

ふたたびソサノヲが問う。

「へー。
ほならなんで、
祓いの歌だけは三十二文字で、
普通のは三十一文字なんや?」

すると姉は、説明しよう!とザ長女ぽい凛!とした目つきになり、張り切った。

「和歌の三十一文字は、宇宙の理にかなっていてね。
天を巡るこの地球の公転は、一年を三百六十五日で回ります。
この一年を四季に分けて、
それをさらに、上旬、中旬、下旬の三期に分けます。
すると一期は、約三十一日となります。
しかし、月の方の進みは少し遅くて三十足らずですよね。
ここに時空サイクル的なズレがあるのです。
このズレの隙間に入り込んで来る他次元時空からの穢れや災いを祓う歌の数が、三十二なのです。
言葉を多めにしてこの、どこから来たのかごくろうさんねタイムボカンな隙間を塞ぐわけなのです」

「なるほど!
まったく解らん!
すげえな姉ちゃんは!・・・だけは解ったぜ!」

白日夢の場面は切り替わり。

ワカ姫姉ちゃんは、
悪虫に襲われている稲田の淵に、巫女たちと立っていた。悪虫たちは稲の実の集積回路を蝕み、ハッキングしている。個人情報を食い荒らすつもりなのだ。

タネハタネ
ウムスギサカメ
マメスメラ、ノ
ソロハモハメソ
ムシモミナシム

稲種(タネ)・畑種(ハタネ)
大麦(ウム)・小麦(スキ)・大触豆(サカメ)
大豆(マメ)・小豆(スメラ)の 
ゾロ(稲)葉(は)も 喰(は)めそ
虫(むし)もみな鎮(し)む

ワカ姫たちの祓い歌が、エモみマイクロ波で響き渡る。
すると、稲田にすくっていたナノサイズの悪虫たちは驚き、時空の裂け目の向こうへと逃げていった。

クリアに晴れ渡る陽の光が、揺れる稲穂アンテナ群に乱反射する、ミラーボールのように。

と。
その複雑に入り交じる光線の中を、ひとりの男が歩んできた。まばゆくて、その姿にはまだ焦点が合わない。

逆光になってる彼は陽気に手を振ってるように見え、まどろみに浸る平将門へと語りかけてきた。

「はーい、お久しぶりでーす。
お久しぶりすぎたかもしれません!
わたくし、亜火ノ聖命でぇーす!」

(おわり)

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