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Stones alive complex (Kyanite)

フフッと漏れたかすかな忍び笑いだったが、過剰演出用に設計された反響壁で跳ね返り、部屋中にエコー付きの高笑いとして響く。

強欲の占術師は、蒼空のペンデュラムが啓示した大霊の答えに満足して微笑む。
垂らしているペンデュラムは、
占術盤に彫られた「はい」を意味する古代文字の上で、激しく回転していた。

「喜べ。我が下僕よ。
来るべき新世界は、我らが一族のものになると大霊がはっきりおっしゃられたぞ!」

彼女の足元では下僕の魔獣、怠惰のネコロマンサーが寝転がっている。
ほぼネコと同じ容姿でいながら、ネコよりも怠惰を極めし恐るべき罰当たりな魔獣である。
魔獣は彼女の踵へ、物憂げに長い尾をからめた。

「ん?
なんだ?
まさか貴様・・・
今夜、三度目の晩飯が欲しいのか?」

「煮夜怨・・・」

面倒くさそうに、返事を鳴くネコロマンサー。
こやつは、最低限度の行動しかしない習性なのだ。

強欲の占術師の引きつった唇から、呆れたため息がこぼれる。

「そなたの望みが、叶うか叶わぬかは・・・なぁ。
大霊の御意思しだいだ。
我らは、その大いなる御意思に従うのみなのだ。
仕方がないが、占じてやるとしよう・・・」

強欲の占術師は、ふたたびペンジュラムを占術盤の上へと垂らした。

「偉大なる大霊よ!
我が怠惰の下僕へと。
三度目の晩飯を与えることを許されるか?
大霊よ!
どうか我らへ、啓示を与えたまえ!」

彼女がお伺いを唱えると。
ペンジュラムには大霊の不思議なパワーが宿り、ゆっくりと動き始める。
占術盤の両側にある、くっきり彫られた大霊の意思を表すふたつの文字。
「はい」と「いいえ」の間を、ペンデュラムの先端はさまよい始めた。

やがて、ペンデュラムが「はい」寄りに落ち着こうとしたので強欲の占術師は、すかさず空いてる手でペンデュラムを掴むと、力いっぱい「いいえ」へ引っ張った。
大霊の意思も、負けじと「はい」へ引っ張り戻す。

先程の占いでは、強欲の占術師はこの腕相撲みたいな勝負になんとか打ち勝てたが、前回のリベンジとばかりに今回の大霊は意地でも引かず、大宇宙が持てるパワーを総動員して「はい」のポジションへとペンデュラムを断固固定した。

ちっ・・・

かすかに漏れた強欲の占術師の舌打ちだったが、過剰演出用に設計された反響壁で跳ね返り、部屋中にエコー付きの跳弾としてちっちっち~と響く。

占いの部屋の隅っこにあるエサ皿へ、肩を落とした彼女は歩いてゆく。
その後ろを追いかけ、怠惰のネコロマンサーがゴロゴロ横転してゆく。

「足ぐらい使わんか!
足ぐらいっ!」

エサ袋を開けて、キャットフード状に加工した憤怒のハッカーネズミをエサ皿へ流し込もうとしたら、怠惰のネコロマンサーがすでにエサ皿を枕にし、口を開けて待っていた。

「・・・。
おまえにもうひとつ、二つ名を授けてやろう。
今日から貴様は、
怠惰と暴食のネコロマンサーだ!」

(おわり)

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