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建設業の労働環境の現状と人手不足の今後(2023/10/27)

今週は建設業の労働環境の現状をみていきます。現在、一般企業に定められている「時間外労働の上限規制」が、2024年4月から建設業にも適用されます。建設業においても長時間労働の是正に向けた取り組みを実施していかなければなりません。あと数ヶ月に迫った規制なので、現状の建設業の労働環境についておさらいしていきます。

下図は産業別に示した1人当たりの年間労働時間の推移です。白抜き赤丸が建設業、青丸が製造業、その他の産業は集計して調査産業計としています。このグラフをみれば、もう労働環境の説明は省略しても良いくらいですが、明らかに建設業だけ労働時間が長いです。もちろん、建設業においても労働時間は減少していますが、調査産業計と比較すると、まだまだ労働時間は長いのです。

なお、土日祝日を休日とすれば年間出勤日数は245日なので、1日8時間労働として、1年間の労働時間は「8×245=1960時間」です。建設業ではそのラインを超過しているので、まだまだ労働時間の長い産業といえます。

産業別1人当たりの年間労働時間の推移(建設業デジタルハンドブック

一方で、建設業に従事する方なら建設業の効率化は、他産業と比べてかなりハードルが高いことをご存知でしょう。建設物は受注生産であり、1点物で、同じ建設物は1つとして無いために、どうしたって他産業と比べて手間がかかってしまうのです。また、建設現場では、大がかりでありながら繊細な作業が求められており、他業界の方が思うよりずっと複雑系で、まだまだ手作業を必要としています。次は年間出勤日数をみていきましょう。前述したように、土日祝日を休日とすれば、年間出勤日数は245日です。一応、2022年は完全週休二日制で祝日も休めている結果です。良い結果だと思いますが、それにしも他産業と比べて働きすぎで、調査産業計と比べると30日分も多く出勤しています。

年間出勤日数の推移(建設業デジタルハンドブック

次に付加価値労働生産性をみていきます。付加価値労働生産性とは、要は、どれだけコスパよくサービス(付加価値)を生み出せたかという、生産性をはかる指標です。同じ1000円の付加価値でも、少ない人数で、短い時間で生み出した方が、付加価値労働生産性は高くなります。

付加価値労働生産性の推移(建設業デジタルハンドブック

その観点からみると建設業の生産性はまだまだ低いといえます。特に、製造業との開きが顕著になりました。元々、製造業は労働集約的な産業でした。労働集約型の産業とは、沢山のサービスを提供するために沢山の人が必要となる産業です。一昔前、製造業も手作業でしたが、現代の製造業は大部分の作業が自動化されています。一方の建設業は、「今も昔もほとんど変わらない手作業」で作り続けており(すこし言い過ぎですが)、老舗のお菓子屋さんのキャッチフレーズなら心惹かれますが、この生産性の低さはどうにかしないと、危ない問題が色々でてきそうです。というのも、労働集約型の事業では、人材の確保が必須です。しかも、専門的な技術、技能が求められる建設業において人材不足は建設業の価値低下につながります。一方で、人材が不足し続けている建設業界。以前、大手ゼネコンの大成建設での施工問題が度々起きている件を取り上げましたが、これは大成建設だけの問題では無いでしょう。

下図は建設業の入職率と転職率を表しています。白抜き赤丸が入職率、緑丸は転職率です。これは良い傾向がみられます。2000年代は転職する人の方が多く、要は建設業を辞める人が多かったのですが、現在は、やや建設業に入職する割合の方が多くなっています。

建設業の入職率と転職率の推移(建設業デジタルハンドブック

次に新規学卒者の入職状況をみましょう。黄色の棒グラフが、新卒学生が建設業に入職した数を示しています。こちらも良い状況であり、建設業に入職する新卒学生の絶対数は増えています。

新規学卒者の入職状況の推移(建設業デジタルハンドブック

最後に建設業就業者数と建設業労働者の高齢化の割合をみていきます。建設業就業者数の推移をみると右肩下がりで建設業労働者の数は20年間で100万人も減少しています。先ほど新卒で建設業に入職する人は増えていると書きましたが、それよりも多くの人材が建設業を「辞めて(退職して)」いるのです。理由は言うまでも無く労働者の高齢化です。

建設業就業者数の推移(建設業デジタルハンドブック

建設業労働者の高齢化の割合をみれば建設業が他産業に比べて高齢化していることが分かります。55歳以上の割合は全産業と比べても5%ほど多く、29歳以下の若者は全産業と比べて5%超少ないのです。このことから建設業は新卒・転職採用で入職する人も一定数いるが、労働者数のボリュームゾーンが比較的高齢のために、建設業全体の労働者数は自然に減少している(つまり定年退職している)ことが読み取れます。

建設業労働者の高齢化の割合の推移(建設業デジタルハンドブック

以上、建設業の労働環境をざっとおさらいしました。建設業はまだまだ労働集約型(沢山の人を必要とする)の産業にも関わらず、建設業の労働者数が減少し続けている点が危ないです。打開策としては、やはり作業の自動化や効率化が挙げられます。どうすれば、人がいなくても施工できるのか。そこに投資すべきでしょう。

では今週はこの辺で。

追記(2024/02/27)

今後、日本では人口減少とりわけ生産年齢人口の減少が加速し、益々、建設業界の人手不足が問題となるでしょう。そして、労働集約型の産業である建設業では、労務費が嵩んでも人手を確保することになります。大手、準大手ゼネコンの動向をみていると、この人手不足に何とか対応しようとする動きがみられます。今後もこの問題は注目していきたいです。

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