見出し画像

【ロシア政治】ロシア人は何に怒っているのか?~アレクセイ ナワリヌイ氏逮捕へのデモの考察~

こんにちは、みっつんです。

2021年1月下旬、反プーチンで知られるアレクセイ ナワリヌイ氏がドイツから帰国後逮捕される事件がありました。このナワリヌイ氏は昨年ノビチョクという毒を盛られ、死の寸前までいったいわくつきの人間で、その後の対応・去就に注目が集まっていました。その中でのロシア帰国・即逮捕だったので、大きなニュースになりました。

さて彼の逮捕を受けて、連日ロシア全土で反体制デモが続いています。

画像1

ロシアの有力紙コメルサントの報道によれば、1月23日(土)のデモにはロシア125の都市で数万人の市民が参加し、全国で3,629人(モスクワ- 1430, ペテルブルグ- 545, カザン - 111)が拘束されました。

ロシアでは度々反体制派デモが発生しますが、今回のデモは近年まれに見る大規模なものであって、2014年の政権交代時に匹敵するものです。この報道を見た時、私は「ロシア人の何かに火が点いた」と感じました。そこで今回ロシア人の友人にインタビューを行い、ロシア人が何に怒っているのかを調査しました。その分析結果をご紹介します。

父なるプーチン像の喪失: プーチン宮殿への激怒

画像2

そもそもロシアでは反体制派の主張はしばしば見られます。よく世論調査で出てくるプーチン大統領の高い支持率はかならずしも実態を表してはいません。ただし、だからといって「反プーチン」を全面的に主張することはありません。多くの場合、彼らには「長い物には巻かれろ」の意識が働き、大目に見るのです。

ロシア人にとってプーチン大統領は一定魅力的な存在でした。それはプーチン大統領の「強い政治指導者としての姿」と「多少問題はあれど複雑なロシア連邦をまとめ上げ安定をもたらす実力」を評価しているからです。ある意味でプーチン大統領は国民にとっての父の役割を果たしていました。ですから不満はあってもグッとこらえることができたのです。

その中で、今回ナワリヌイ氏は1本の動画を投稿しました。

これは、プーチン大統領がロシア経済界の大物による賄賂を用いて宮殿を建てたことを告発するものです。内容によればこの宮殿は約1400億円をかけて建設され、地下にはスケート場やカジノ施設などあらゆるものが備え付けられています。

これがロシア人の逆鱗に触れました。

もともとロシアの経済は盤石とはいえず、また富の再配分も進まぬ中で多くのロシア人は比較的低い生活水準で生活していました。さらに現在は新型コロナウイルスによる規制も相まって、生活の困窮度は増しています。その中でロシア国民はいつも通りプーチン大統領へ支援を懇願していました。

しかし実際にはプーチン大統領とその仲間たちは悠々自適で豪華な生活を送っていたことが発覚したのです。結果的にプーチン大統領を慕うロシア人は彼に裏切られることになったのです。

その不満がデモという形で爆発しました。各地で連日デモが開催され、回をまず毎に参加人数が増えています。

実際に私の友人は次のように語ります。

僕の両親もデモには行った。最初はデモの様子を見に行ったのだけど、次第に人が増え徐々に群衆の中に巻き込まれた。その中でプーチン大統領に対する不満を叫んだ。

従来はプーチン大統領を支持していた、または大目に見ていた層がプーチン大統領の裏切りに気づいて、次々反対派に回るのが、現在の状況です。

恐れることへの疲れ:「長いものには巻かれろ」精神の反作用

画像3

従来、反プーチン派の勢いを抑えていた別の要素として政府による監視などに対する恐れがあります。友人によれば、大学生が反プーチンデモに参加して退学になるといった事例がロシアでは少なからず起きています。こういった体制側の実行力を恐れて「長いものには巻かれろ」=「余計なことを言うな」という意識が働き、結果的に多くのロシア人は「わざわざ反プーチン派には加わらない」という選択をとったのです。

しかし、先ほど述べたような事情から一定数のロシア人がデモに参加しました。その結果一時的ではあるものの、反プーチン勢力が多数派を占めるような状況になりました。

すると「長い物には巻かれろ」=「今くらいプーチンの反対意見を言っておけ」という意識が働き、反プーチン派に加わるという選択をとりつつあります。

この状況について私の友人は次のように語ります。

「今までは政府による監視などを恐れて余計なことはしなかった。しかしここ最近の生活水準低下も相まって恐れることに疲れてしまった。だから今くらいは自由に意見を主張するのだ。」

この発言から考えるに、この大規模デモはしばらく続くと予想されます。

終わりに: ロシア人のなにかが変わった

画像4

今回のデモは今までのデモとは異質な雰囲気をまとっています。今まではデモに参加していなかった層がデモに参加しているように見受けられます。

私はこの状況から、ロシア人のなにかが変わったと分析します。これがすぐにプーチン体制の転換につながるとは考えにくいです。しかしロシア人の中でプーチン大統領を見る目が変わったのは事実かと思います。

実際に何が変わったのかは分かりません。しかしその変化について注意を配るのは、今後のロシアを見る上で重要になってくると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?