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言い方ひとつで損しちゃう問題


年末に上司からちょっと相談があるのだけど、と声をかけられた。うちの職場は職場内に食堂がない。お昼に近所のお店がお弁当やらサンドウィッチやら簡単なものを売りに来ているのだが、そこに前々から参入したいというお好み焼き屋さんがあった。検討の結果毎日来てもらうだけの手間とそれに合った利益が見込めそうにないだろうということでお断りしたのだったが、その代わりに部署内で時々注文をしてあげてはどうかと上司は考えていたようだ。そしてその“時々”がやって来たらしい。

「皆に声かけてみて、注文したいという人を募って欲しい」
そして
「注文をとりまとめて、ついでに代金もとりまとめて、ついでに注文の電話をかけて欲しい」
というのが、私への相談だった。相談ていうか、お願い?まあ良い。私もたまにはソースものが食べたいし、年末で比較的仕事もゆったりしているのでここは快く引き受けた。

上司から同僚の“動静表”を預かり、注文当日出勤してそうな人に声をかけた。年末は早くから冬休みをとる人も少なくないので、その日に出勤してそうな人といっても20人くらい。予想通り、“お好み焼き”というのはキラーワードだったようで、その日は午後から休みを取ろうと思っていたけどお好み焼きを食べてから帰るよという人や、お好み焼きを食べてから出張に行くよという人や、とにかく皆“お好み焼き”にテンションが上がったようだ。


分かるよ、わかる。ここは田舎なのでお昼に外へランチに出かけるのもままならない。お弁当持参か、コンビニか、職場で注文する業者のお弁当か、近所のお店が売りに来るパンにするか。
45分しかない昼休憩では、お好み焼きすら外へ食べに行くのが億劫なのだ。
それが、配達してもらえるとなるとこれはもう食べるっきゃないでしょ、ぐらいな人気ぶりだった。皆で同じものを食べる、ってとこも良い。結局15人から注文を委託された。

ほとんどの人が注文と同時に代金を払ってくれた。小銭ばかりの状態を見た同僚の一人が、「札に替えましょうか。何かと小銭が必要なんで替えてもらえると逆にありがたい」と言ってくれて小銭を1000円札に、それをさらに5000円札に両替してもらった。そこへ、私たちがワチャワチャとお金を両替しているのを見ていた一人が、「何ごとですか?」と、少し機嫌悪そうに聞いてきた。私は、
⚪︎上司から皆でお好み焼きを注文して食べようという話が出ていること
⚪︎注文する日が出勤日の人に声をかけたこと
を伝えた。確かその人は、注文当日、休みをとっていたはず。私が、「〇〇さんはお休みをとられていたのでお声かけをしませんでした」と言うとその人は、「え?私が?休みを?」と怪訝そうに言う。

あれ?違いました?と言いながら私は、上司から預かっていた動静表を見せて、
「〇〇さん、お休みってなってたので」と言うと、
「休みはとっているけど仕事には来る」
と怒ったように返してきた。私は、
「あら、そうなんですね、それはすみませんでした。それなら是非参加してください。ご注文、何になさいますか?」
と返しながら内心では、「動静表に“休み”って書いてあるけど仕事には来るつもりだった」と言われても、そんなの私にわかるかいっ!と思っていた。注文を聞かれたその人の機嫌は直り、「コレステロールのことを考えて、イカ玉にしようかなっ」などと言っている。自分だけ注文を聞いてもらえなくて仲間はずれみたいになっちゃってたのは申し訳なかったけど、だったらもう少し言い方があるだろうに。


これまた年末に、我が家のトイレのリフォームをした。我が家のトイレは昔ながらに男女に分かれており、以前リフォームした時には男性用は内装だけ替えて便器はそのままだったのを義母が、ご近所の工務店が年内に会社を畳むので「その前に男子トイレの便器を替えたらどう?」と言ってきた。もちろん言ってきたってことは、義母がお金を出してくれるってことだ。そのことを家でちゃまに話すと、
「男性トイレより女性トイレを替えてもらえ」と言う。理由を聞くと、うちの女性トイレは水圧の関係で数年に一度は部品を替える必要が生じており、前回直しに来てもらった時に業者さんから、このトイレも古いのでそろそろ部品が無くなると言われたそうだ。

「男性トイレより女性トイレが直せなくなるのは困るだろう」というわけだ。確かに。そう思った私は、次の日義母にその旨を伝えた。すると義母は、
「だったら両方とも替えたら良い」と言ってくれた。
「良いんですかっ?」
「だって困るでしょ」

ありがとうございます。心からの素直なお礼が言えた。

さっそく工務店に相談に行き、社長さんが下見に来てくださった。すると便器だけではなく、手洗いのパイプが錆びついてしまっていることや、壁紙が所々剥がれてしまっていることも指摘され、そこらへんは元々気になっていたのでこの際いっそのこといっぺんに替えようか、という話になった。もちろん義母に全部払ってもらうのは申し訳ない。と思いつつも一応相談すると、「この際全部直してもらいなさい。私が出来るだけ出してあげるから」と言ってくれた。良いんですかっ?誠にありがとうございます。もちろん心からのお礼。


さて、このリフォームがやっと完成した時の話。工務店からは毎回同じ担当者が来て、本来なら2日か3日で済むはずだったのが、社長の不手際なのか工務店を畳む前だから部品の調達が難しかったのか、まあなんだかんだで予定より多く、何回も来てもらわなければいけなかった。

その担当者は会社がなくなった後個人で会社を始めるのか、また何処かに勤めるのかはっきりとは決めてないらしかったが、私たちは“また何かあった時のため”に彼の連絡先を聞いておきたかった。ちゃまは何度かその話をしたらしいがその度に「まだはっきり決まってないので、決まったら連絡します」と言われていたらしい。工事最後の日、
「さすがにこれで完成よね?」
と私が言うと、
「まあ、また何かあったらいつでも言ってください」
などと言うので、すかさずちゃまが
「だったら連絡先を教えといて」と言った。すると、
「(ちゃまの)お兄さんがご存知ですよ。」と言う。
「お兄さんも、お兄さんの奥さんも僕の連絡先は知ってます。奥さんは何かあったらすぐにLINEして来ますよ」
と言う。まあそんなに親しいの?と思ったものの、連絡先を知りたいと言っているお客さん(私たち)に対してその返答はいかがなものか?その場で連絡先を教えてくれるだけで済む話なのに、後から兄夫婦に聞けってか?そもそも兄たちには既に教えてあるのに、うちは教えてもらえないわけ?

結局彼の連絡先は聞けずじまいだった。どっちにしてもこの先この人に連絡することは多分もう無いな、と思った。話しやすい人だったからこれから先もお付き合いさせてもらおうかと思っていたけど、なんかもういいやって気持ちになった。


義母が年末から足のケガで苦しんでいる。傷からバイ菌が入ったとかで足が腫れて疼くらしい。元々リハビリに毎日通っている整形外科でその治療もしているがなかなか良くならず、内科も受診したらしい。少しずつは良くなってはいるが本人はとても不安で「このまま死ぬかも」などと言う。お医者さんも家族も、そんなことで死にはしないと笑って否定してあげても、今年91歳、いろいろ考えてしまうようだ。実は、亡くなった私の実母は、おできが起こした炎症で全身に細菌がまわっての発熱が原因で入院し、その後他の持病も伴って結局亡くなったのだった。


「(石元のお母さんみたいな)あんなことになったらいけんわ」


それ言う?それ、私に言う?
不安なのはわかるし、もちろん、そんなことにならないように気をつけて欲しいし、義母にはもう少し長生きしてもらいたいと思っている。


でもね。


言い方って、あるよね。同じこと言うにも相手がどう感じるか、考えて言葉を選ばなきゃだよね。だってほら、私みたいな人がいるからさ。私みたいに言葉ひとつでいろいろ思う人がいるからね。私みたいに後からいろいろ考えてそのことを根に持つような人がいるからね。私も気をつけなきゃだな。


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