子育てフレンドリーな納期設計

このnoteは、エッセイです。ビジネス系解説noteではありません。たまにエッセイを書くことにしました。どうぞお付き合いください。

数日ぶりに鏡を見て、とても驚いた。自分でも分かるくらいに頬がこけて、目がくぼんでいる。こいつはダメだなあ、とほんの少しだけ、痩せすぎな自分に焦りを覚えた。食欲がなく、38.6度の高熱が続き、嘔吐と倦怠感に悩まされ、かれこれ50時間近く薄めたポカリ以外の何も胃に送っていないのだから、当然と言えば当然なのだけれど。

ゴム手袋と使い捨てマスクをつけ、深夜2時の冬の東京の冷気が窓から流れ込む中で、嘔吐に汚れた子供の布団を消毒する週末を過ごしながら、ふと子育てフレンドリーなジョブについて考えていた。

子供は、特に保育園に通っている子供は、必ずと言っていいほど、流行り病をもらってくる。「体調管理も仕事のうち」なんていう馬鹿げた言葉があるけれど、まともに子育てと向き合っているビジネスパーソンが体調を壊さないように生きていくのは、感染症対策のプロでも無い限り不可能だろう。

子供が生まれ保育園に通い始めた途端に、今まで元気でパワフルに仕事していたメンバーが、バタバタと休み始める。溜まっていた有給は、旅行や趣味ではなく、自分の看病と、子供の看病と、突然のお迎えや通院に使われて無くなっていく。そういう光景は、子育て世帯が沢山働く会社ではありふれており、何も珍しくない。

子を持つ立場になってから気付いたけれど、"子育てフレンドリー"と言われている会社では、子供が原因で親が突然休むようなことがあっても、基本的に組織が回る。全員がいっぱいいっぱいで、誰か一人が休めばパンクしたり、担当クライアントからの連絡を全て私信で受け取ってやり取りしたりしている組織だと、一人が休むだけでドミノが倒れる。そういった問題が置きないように、突然誰かが休んでも通常運転できるように、盤石かつバックアップのある事業運営体制を構築している会社が、当たり前ながら子育てフレンドリー企業になっていく。結局のところ子育てフレンドリーというのは、経営の強さと一定の人数規模があって成立するもので、就業規則や人事制度をちょろっといじっても、本質的には中々達成できないものだったりする。

かくいう私も、子育てフレンドリーな環境で幸い仕事をできており(というより、会社役員として、当事者として、そういう就業規則と働き方を整備した)、ここ1年半ほどは毎日夕方17時45分に会社あるいは自宅を出て子供を保育園にお迎えに行き、家に帰り、子供と夕食を食べ、風呂に入らせ、寝かしつけ、22時頃からまた仕事を再開するような生活を続けている。毎日恐ろしいほどの疲労感があるけれど、仕事と子育てを毎日やっている家庭なんて、大概どこもこんな感じだろう(私は、いわゆる"夜担当"のロールが多い)。

ところで、子育てをしながら仕事をする中で、子育てのしやすさは役割に求められる"納期"でも随分と変わるものだな、とふと感じた。たとえば、即レスが求められる超短納期の業務を持つことは、確実に子育てと相性が悪い。チャットサポートの一次返信は3分以内を死守!といった社内SLAを持っているCS方針の会社は多いと思うけれど、ユーザーからのお問い合わせのタイミングで保育園と電話していたら3分なんて一瞬だ。子供が熱を出したときに、どっちがお迎え行く?といったやり取りを業務時間中に夫婦で電話ですることも多いだろうけれど、それが許されないスピード感の職場も厳しいだろう。カスタマーサポート、インサイドセールスあたりは、特に顕著だと思う。

もう少し余裕がある、当日納期の業務が多い職種も、最悪とまではいかないけれどかなり相性が悪い。「これ、今日中にお願いできる?」というコミュニケーションには、大概、「(できればちょっと残業してでも)今日中に終わらせてもらえるかな」というメッセージが含まれていたりする。そういったコミュニケーションを、保育園の都合上必ず定時に帰らなければならない人にすることは、非常に精神的プレッシャーになるし、タイムマネジメントとして望ましいものではない。ほんのちょっと残業した結果、保育園に遅れて支払うことになる罰金を、どうせ会社は負担できないのだから(そして大概、依頼するマネージャーは、そういった構造に気付いていないことも多いだろう)。

一方で、緊急タスクが少なかったり、中長期型のプロジェクトに関与することが多いポジションは、かなり子育てと相性が良い。

例えば私自身は、コーポレートを生業に生きるものとして、いつも一人で淡々と経理・労務・法務・財務・総務・経営管理といった仕事をやっているけれど、納期が突然今日!という業務は滅多に無い。経理や労務、経営管理といった月次の業務は非常に予定が立てやすく、突然今日3時間が潰れても大きく問題になることはまず無い(事前に準備していれば)。もちろん資金調達の局面や各種依頼など、厳しいスケジュールが必要な場合もあるけれど、「1時間以内のレス希望」や「何があっても今日中に」という姿勢を定常運転で求められない性質を鑑みると、コーポレート職は非常に子育てフレンドリーなジョブだと思う。

同様のことは、当日納期といった緊急タスクが少なく、中期的なプロジェクトやタスクでの稼働がメインとなっているエンジニアや、クライアントワークを持たず業務の大半が社内ミーティングと資料作成に追われる経営企画、外部打ち合わせが比較的少ないIRにも感じられる。

そんなことを思いつつも、そういう仕事のスタイルを実践するためには、自分の仕事の余剰リソースと実行速度を理解した上で、各タスクの仮納期と本当の納期を視覚化し、子育て突発タスクで発生するスケジュールの穴に対する"バッファ"を常に持たせるタイムマネジメントも必要なわけで、結局そこが1番難しいんだよな、と回らない頭でぼーっと思考を回していた。

50時間の絶食のおかげか、体調はすっかり元通りになり、朝には食欲が戻っていた。減ってしまった体重を戻すべく、さっさと仕事を納めて、年末年始は健康な体づくりをしたいね。

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