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電力小売事業のビジネスモデル

こんにちは!及川です。
三ッ輪グループで電力事業を展開するイーネットワークシステムズで代表を務めています。

今回は、当社が展開している電力小売事業のビジネスモデルについて、簡単に紹介したいと思います。

「電力事業は儲かるの?」
「電力会社のビジネス構造はどうなっているの?」

と思っている方、

「新規事業を立ち上げたい!」
と思う方にも参考になるかもしれません。
また、電力事業における電源調達の大切さ、電源価格が電力事業に及ぼす影響の大きさについても触れたいと思います。

さて、電力の小売全面自由化は2016年4月に開始されました。
自由化前までは、私の前職でもある東京電力のように、各地域の電力会社が地域独占で電気を供給してきました。
(「提供」とは言わず「供給」というのが業界的。会社視点の用語ですね。)

したがって、当社が現在展開している電力の小売事業というものは、古くからあるように見えて、実は最近出来た業界・ビジネスでもあるのです。
考え方・捉え方次第ではありますがインターネット業界よりも新しい業界とも言えるのではないでしょうか。

ではビジネスモデルの話に入ります。

ちなみに、ビジネスモデルというと難しく考えがちですが、
「商品を作って売る」「商品を仕入れて売る」「サービスを提供する」
あるいは
「サービス紹介してフィーを得る(広告事業や仲介事業)」
など、基本形は決まっています。

基本形をベースに、関連する要素をアレンジすることで様々なビジネスモデルを生み出すことが可能になりますので、私は「基本を押さえる」という点を大切にしています。

まずは電力事業の基本的なビジネスモデル(儲けの仕組み)を説明したいと思います。
当社はこれまでになかった様々な新しいエネルギーサービス(電気プラン等)を提供していますが、これから説明する内容が全てのベースになります。

では、最初に電力事業のビジネスモデルの公式基本形を記載します。
※用語は説明しやすいように簡略化します。ご了承ください。

言葉を簡単に解説します。

■電源費用
文字通り、お客さまに提供する電気の元となる電源にかかる費用。当社のように発電所を持っていない会社の場合は、電源の調達にかかる費用を意味します。

■販売管理費
電気を販売・提供するために必要な経費

例えば、電気料金の割引やキャンペーンのインセンティブ費用といった販促費用や電気事業を運営するためのオペレーション費用・システム費用、その他会社運営に必要な様々な費用等が販売管理費(販管費)などが該当します。

今回は、販管費の詳細説明は省略しますが、実際には、ここは自社でコントロール可能な費用領域であり、他小売電気事業者との競争優位性・差別化要素といった競争力を生み出す源泉の一つだったりする「販売価格」と同様、重要な領域です。

■託送料金
この言葉には馴染みがない方が多いのではないでしょうか。
託送料金は、電力自由化の開始にあわせて、経産省が新たに作ったルールです。
当社のような小売電気事業者は現在では800社近くありますが、小売電気事業者各々が明治時代のように電柱や配電線をそれぞれが設置・施設して電気を販売しだしたら大変なことになります。日本経済全体にとっても非効率的です。

そこで、経産省は、東京電力など地域の電力会社の送配電設備を一定の費用を支払うことによって皆で使えるようにルールを定めました。
これが「託送料金」です。

託送料金を支払うことによって、各小売電気事業者は電気を運んでもらうことができます。通信販売でいうところの配送費用ですね。

したがって、小売電気事業者は託送料金を支払うことで「自前で電気の送配電設備を持たなくても、電気をお客さまに提供することができる」ということになります。
また、各地域の電力会社に電気の配送供給を任せるので、電気の品質も地域の電力会社と全く同一になります。


では、ここで実際にビジネスモデルの理解のため、電気事業の収益について計算してみます。
簡略化のため、一旦、販管費や基本料金など、様々な要素を割愛していますので、ご了承ください!とにかく分かりやすさ優先!

まず「電気の販売料金」に関して。

例えば東京電力の場合、毎月の電気使用量が300kWhのお客さまなら1kWhに換算すると電気代は約24円になります。

これに対して、電気を販売するためには、電気を調達する必要があります。
電源費用はここでは仮に1kWhあたり12円とします。
この数値は、卸電力取引市場(卸市場)といって、電気を売買できるマーケットがあるのですが、その卸市場の2020年度の平均価格(少数点以下四捨五入)になります。

販売価格24円から電源費用12円を引けば半分くらいになるので「電気は儲かるね!」と思うかもしれませんが、忘れてはいけないものがあります。
そうです、上述の「託送料金」です。電気をお客さまに届けるための費用です。
東京電力の託送料金は7.48円/kWhです(電灯の一般的な契約の場合)。

つまり、毎月の電気使用量が300kWhのお客さまに対する1kWhあたりの収益は下記の通りとなります。

そして、この収益(粗利と言います)から、販管費を捻出して事業を運営するというのが電力事業の基本的なビジネスモデルになります。
(実際には、販管費や電源調達費用、そして競合他社をみて販売料金を決定する等、総合的な判断で事業を運営していきます。)

ちなみに、毎月の電気使用量が400kWhのお客さまの場合は1kWhに換算すると電気代は約26円になるので下記のようになります。

上記の試算結果はつまり、「電気は電気使用量が多く使うお客さまの方が、小売電気事業者が多く利益があがる」ということを意味しています。

すなわち、電気使用量が多いお客さまにアプローチする戦略が電力事業のセオリーとなります(繰り返しになりますが、分かりやすく簡略化しています。実際はもっと複雑です)。

なお、6.52円/kWhが丸々収益になるわけではなく、上述の通り、ここからお客さまへの割引原資・人件費など、事業運営に必要な費用を捻出することになりますので、実際に手元に残る収益はかなり小さくなります。

また、電力事業は電源費用の影響を強く受けるものでもあります

直近の事例では、原油、LNGなど発電に必要な燃料の高騰を受け、最新の卸市場の価格は約23円/kWh(少数点以下四捨五入)です。
(本原稿執筆:2022/2/6の時点確認した翌日2/7の価格)

上記を公式にあてはめてみます。

つまり、現在、卸市場から電気を調達している小売電気事業者は、電気を売れば売るほど赤字になるということを示しています。

kWhあたりでみると約5円と小さいですが、1ヶ月続くと400kWh×5円=2,000円の赤字、1万件だと2000万円の赤字に。深刻な問題です。

このように、電力事業は電源費用が経営を大きく左右します
いかに電源調達が電力事業で大きなウエートを占めるか、わかっていただけたのではないでしょうか。

このような事態にならないよう当社は卸市場からは直接購入することはしていませんが、卸市場がこれまで安かったこともあり、多くの小売電気事業者は卸市場から調達しているケースが大半でした。

しかし、上記のような最近の卸市場の高騰で痛手をこうむったことから、最近では卸市場からの電源調達比率を低くし、当社と同じように発電事業者と直接契約して電源調達するような動きをしています。

なお、当社が当初から電源を卸市場に頼らず、発電事業者と直接契約を結び電源調達していた一つの理由は「価格をコントロール下におくため」です。

卸市場からの調達に頼ると、株式市場と同様に価格の予測は困難であり、自分で原価をコントロールするのは難しいと当初から判断していました。

私はこれまで数々の新事業を立ち上げてきた経験から、事業運営では「自分がコントロールできないものは極力コントロール出来る手法を選択すること」「逆に自分で完全にコントロールできるものを使って差別化要素・競争優位性を作って勝負すること」を心がけてきました。
それが今回は功を奏し、「事業家」として現時点では満足できる結果となりました。

長くなりましたので締めますが、電力事業に限らずビジネスの基本は「ビジネスモデルの構造を分解して、『自社でコントロールできる部分を』『自社で負えるリスクの範囲で』コントロールする」ということにつきます。

今回は詳しく触れませんでしたが、販管費の中の「販促費用」を活用することが、電力事業では差別化要素の源泉になるケースも少なくありません。

当社で創出しているこれまでになかったような新しいエネルギーサービスは、実は販促費を上手く活用することで生み出しているものが大半だったりします。

ビジネスはロジックです。新規事業に携わりたいと思っている方は、これらを意識しておくと良いかもしれません。

ちなみに新規事業で一番大切なのは何か?
「熱い思い!」だと私は思っています。
以上、完全に私見ですが、参考になれば幸いです。

 それでは最後までご覧いただきありがとうございました!

●前回の記事

株式会社イーネットワークシステムズ 代表取締役社長 及川浩
1993年4月に東京電力株式会社に入社。
東京電力では営業部門に約10年、新規事業部門に約13年在籍。営業部門では電気の契約業務から電化促進活動、WEBサービスの企画・開発・運営等、幅広く従事。
新規事業ではコンシューマ向けサービスの開発・運営等を主として担当。
2015年6月から現職。

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