見出し画像

チョコレートな恋

「これ、食べる?」
 と彼女はバツが悪そうに、僕にチョコレートの包を手渡した。

 僕が仕事の相談で彼女に話しかけたとき、彼女は丁度オフィスの自分のデスクの引き出しを開けて、チョコレートを一口食べようとしていたのだ。
 そこで僕と目があってしまったので、仕方がなく手に持っていたチョコレートの包を僕に差し出したのだ。

「あ、チョコレートなんて食べないよね。ごめん」
 と言ってその手を引っ込めた。
「チョコレートなんて嫌いでしょう? チョコレートが似合わない顔しているものね。バレンタインとかにチョコレートをもらっても、俺チョコレート嫌いなんだよなあ、とか言って誰かに挙げちゃうタイプよね。そうそう。甘いものなんて女が食べるものだと思っているでしょう?」
 と言って恥ずかしそうにする。

「好きだよ」
 と僕は言った。彼女の顔が真っ赤になった。
「チョコレート、好きだよ」
 と僕は繰り返す。
「え、そうなの? でも甘い物嫌いそうに見えるけど」
「甘い物、好きだ」
「じゃあ、あげる」
 と言って彼女はチョコレートの包を一つ僕に手渡す。
「ありがとう」
 と言って僕はチョコレートを口に入れる。彼女もチョコレートを口に入れた。
 僕らは微笑み合う。

「あ、今、甘いものばかり食べてるからぽっちゃりなんだ、って思ったでしょう?」
 と彼女が言う。
「君はぽっちゃりなんかじゃないよ。確かに痩せてはいないけれど、スタイルは良いし、丁度いい感じだよ。甘くて食べてしまいたくなるよ。チョコレートみたいに」
 と僕が言うと、彼女はまた顔を真っ赤にした。

「じゃあ、食べてみる?」
 と彼女が恥ずかしそうに言うので、「今度ね」と答えた。

「チョコレートってさ、頭を使って疲れたときの糖分の補給に丁度いいんだ。だから僕は大のチョコレート好きだ。だけどさ、チョコレートが嫌いそうに見えるからって、バレンタインデーにはチョコレートを貰えないんだよね。僕はそれがいつも残念なんだ」
 と僕は言う。
「じゃあ私が今度のバレンタインデーに手作りチョコレートを作ってあげる。溶かして固めるんじゃなくて、カカオ豆から作るわよ」
「えー、それいいね。バレンタインデーまで待てないな。僕も作りたい」
「じゃあ、今度私のアパートで、一緒にチョコレートを作りましょう」


 こうして僕らの恋はスタートした。
 それは、チョコレートな恋だった。


おわり。

もしも僕の小説が気に入ってくれたのなら、サポートをお願いします。 更なる創作へのエネルギーとさせていただきます。