月曜日、ストリートにて
水野貴美は、街頭でストリート・ライブをしていた。
月曜日、その男は現れた。
高級なスーツを身に着けたその男は、少し離れたところに立ち、貴美の歌を聴いていた。
その姿は、ジェイ・ギャツビーのようでもあった。
男はしばらく貴美の歌を聴いた後に、満足そうに微笑むと、お金をギターケースに放り込んだ。
貴美はギターケースに入れられたお金が1万円札だったということには、そのときは気が付かなかった。
帰り際にそれに気が付き、驚いた。
次の週の月曜日、その男はまた現れた。
そしてその男が1万円札をギターケースに放りこんだ瞬間、貴美は歌うのをやめて、その男を呼び止めた。
「あの、私、こんなにもらえません。私の歌にはこんな価値はありません」
と貴美はきっぱりと言った。
男はとても不思議そうな顔をして貴美を見た。
「ずいぶんと自分に対する評価が低いんだね、君は。僕にとってはそれだけの価値があったから、そうしただけだ」
「私の歌にはそんな価値はありません」
と貴美は首を横に振りながら繰り返した。
「君の歌声は、人を幸せにする。君の歌声を聴いて、救われる人がいる。僕だけではなくて、もっともっと沢山の人を、幸せにして欲しい。それが僕の願いだ。そのために歌ってくれ。これはそのためのものだ」
と男は言った。
貴美の目から涙がこぼれた。
「価値なんて、それを受け止めた人が決めることだ」
と男は言って、去っていった。
つづく。
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