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恋する花蓮

 竜崎真彦は一目惚れだった。
 彼女は竜崎にとってドストライクだった。
 彼女の名は森山花蓮。
 映像制作会社に務める女性だ。

 竜崎はロックバンドでギターとヴォーカルをしていた。
 色々と事情があって、バンドは解散し、今は事務所で飲んだくれている。
 だけども花蓮は荒野に咲いた花のように竜崎の目の前に現れた。
 花蓮は可憐だった。

 胸がときめいた。
 心が踊った。
 胸キュンだった。

 イエロー・マジック・オーケストラの「君に胸キュン」が歌いたくなった。
 竜崎はカラオケに行って「君に胸キュン」を歌った。
 だけども何か違うなあ、と思った。

「俺はロックミュージシャンだ。
 カラオケじゃない。
 ロックなんだよ」
 竜崎はそう思った。

 竜崎は最近知り合ったミュージシャンを集めて、ライブがやりたいと思った。ライブハウスでライブがやりたい。
 同じ音楽事務所のミズノキミのために集まったミュージシャンに声をかけた。
 ベースに茜、ドラムスに星崎凛子、キーボードに月光朱里、ギターにミズノキミ。
 ガールズバンドのメンバーだから全員女だった。
 かつての仲間は色々あって皆絶縁してしまっている。

 女だからといってあなどれない。
 茜と凛子はパワフルでハードなロックを演奏できる。
 朱里とキミはあまり乗り気ではなかったが、竜崎のために嫌々ながらも付き合ってくれた。
 そう、これは竜崎の恋を叶えるためのライブなのだから。

 ライブの当日、田部井翔太に頼んで花蓮をライブに誘った。
 田部井に連れられて、花蓮が会場に現れた。
 だけども何か変だ。
 花蓮の隣にくっついているハンサムな男がいる。

「誰だ、誰だ、誰だー♪」
 竜崎は思わずガッチャマンのテーマを歌いそうになる。
 いや違う、竜崎が歌う歌は、花蓮に対する気持ちを伝える歌だ。

 演奏が始まる。
 竜崎は「君に胸キュン」を歌った。

 花蓮の様子を見る。
 男と手を繋いでいる。

 ライブ演奏を続けて、何曲か歌った。
 そしてスローな曲の演奏を始めたとき、それは起こった。

 演出のために照明を落としてキャンドルの火を灯した。
 そしてスローな曲が始まると、可憐が男の背中に手を回して、踊り始めたのだ。
 振られると判るまで、何秒もかからなかった。
 竜崎の目は上の空になり、花蓮の姿に釘付けになった。

 終わった。
 全ては終わった。

 竜崎はまだ何曲も用意していた曲の演奏をやめて、最後の一曲を歌うことにした。

 大滝詠一の「恋するカレン」。

 そのまんまやんかー!

 竜崎は泣きながら「恋するカレン」を歌った。

おわり。

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