へそ出しルック
「最近また、へそ出しルックが流行ってきているから、浜崎あゆみみたいなコーデをしてみたんだけど、どうかしら?」
と彼女は言った。
彼女はへそ出しルックだった。
「中国人のおっさんも、へそ出しルックだ」
と僕は言った。
「え?」
「夏になると、中国人のおっさんはTシャツの裾をまくりあげてお腹を出して歩くんだ。自慢げに大きく膨らんだおなかを出して、ぽんぽんとたたく。いくよくるよのくるよのように」
「一緒にしないでよ」
「一緒になんかしていないけど、どうしても中国人のおっさんの映像が目に浮かんでしまうんだ。ぜんぜん違うのに、どうしても頭から離れない。だって中国に行くと、夏はみんなそうだし、嫌でも目に入ってしまうから」
「ここは中国じゃないし。そういうおっさんいないし。だからやめてよ、そんな話」
「ごめん。きみのへそだしルックは素敵だ」
「なんか、とってつけたみたいに言わないでよ」
「ごめん。とってつけた」
彼女は怒って帰ってしまった。
だけど仕方がない。
僕は悪くない。悪いのはへそだしルックの中国人のおっさんだ。
彼女も悪くない。
ある日、彼女はチャイナドレスを着て僕の目の前に現れた。
チャイナドレスは魅力的だ。
制服を着た女子高生、CAのユニフォーム、そしてチャイナドレスは女性の魅力を倍増する。
「中国に行ったときにさあ、太ったおばさんがチャイナドレスを着ていて、なんだかそのおばさんがすごくキモくて、それ以来チャイナドレスの人をみると、そのおばさんを思い出して気持ち悪くなるんだよね」
と僕は言った。
僕の言葉に彼女はものすごく不機嫌になって切れた。
「なんなん? あんた、なんなん? 中国、中国って、知らんがな。
ここは日本だし。ジャパンだし。ジャムパン食べたいし。
関係ないでしょ、それ。だったら何がええねん?
言うてみい!」
ああ、彼女が大阪のおばちゃんになった。
おわり。