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箱推し

「僕は箱推しなんだよね。誰か一人が好きだっていうんじゃなくて、みんなが好きなんだよ。だってみんなそれぞれに違いがあって魅力的だから。明菜ちゃんは影があるけど魅力的だし、環奈ちゃんはキャピキャピしていてかわしいし、敦子ちゃんは清楚な感じがいいし、美嘉ちゃんは声が好き、愛子ちゃんは歌がうまいし、仁恵ちゃんはダンスがキレッキレだし、ともかくみんなが好きなんだよ」
 僕は彼女に向かって熱弁した。

「私、アイドルじゃないし、グループに入っていないし、他の人知らないし」
 彼女は冷めたトーンでそう答えた。

「ああ、これは僕の「いとるグループ」の話だよ」
いとるグループ?」
「僕の好きな女の子を48人でグループにしているんだよ。
 僕が僕だけのためにプロデュースする「いとるグループ」。
 好きなときに好きな女の子とブッキングして、食事をしたり、ショッピングをしたり、映画を観たり、あれこれしたりするんだ。
 特定の誰かじゃなくて、メンバーの中からその都度選ぶんだ。僕は箱推しだからね。
 今日は予定していた女の子がドタキャンになってさ、その代わりを探したんだけどみんないてなくてさ、いていたのが君だけだったんだ。
 君はいっつもいとるよね。本当に暇だよね。君はナンバーワンいとるだよ」
「うれしくないし」
 彼女は口を尖らす。

「あ、もう時間だ。次の予定があるから行くね。
 君と約束した後に別の女の子の予定が空いたからブッキングしたんだ。短い時間だったけど楽しかったよ。
 君みたいな地味なタイプの女の子も意外と好きなんだよね。たまにはいいなって思うんだ。たまにはね。本当にたまにはね。うんうん、たまに。僕は箱推しだから」

「まじかー」
 と言って彼女はがっくりと肩を落とした。
 だけどもすぐに気を取り直したかのように開き直り、大声で歌を歌い始めた。

「なんてったて、〜いと〜る♪ なんてったって、〜いと〜る♪」

おわり。


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