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魔法の鏡

「魔法の鏡を持ってたら、私の暮らし、映してみたい?」
 と小百合は僕に尋ねた。
「何? ユーミン?」
 と僕が聞き返すと、小百合は嬉しそうに、「あるのよ」と言ってほほ笑んだ。

 彼女は僕の部屋の壁に、15インチサイズのモニターを設置した。
「これが魔法の鏡よ」
 と言って、またほほ笑む。
 これはアマゾンの音声操作デバイスだよね、と僕は思う。

 電源を入れると、インカメラでそれを覗き込む僕らの姿が映し出された。
「ね、普通の鏡みたいでしょう? だけどね、これは魔法の鏡なの」
 と言って小百合は僕を見た。そして鏡に向き直ると鏡に向かって話しかけた。

「鏡よ、鏡よ、鏡さん。小百合の部屋を映してみて」
 と小百合が言うと、「小百合の部屋を映します」とデバイスの音声が答えて、表示が切り替わった。そこには小百合のアパートの部屋が映し出された。

「私の部屋にカメラを設置したの。これでいつでも私を見られるのよ。もしもブルーにしていたら、偶然そうに電話をしてね」
 え?
「自分の生活を人に見られて、嫌じゃないの?」
 と僕が小百合に尋ねると、小百合は首を横に振った。
「どうせ一緒に生活をしたら、いつでも見られているわけじゃない? あなたにいつも見られていたいのよ。一人の時も、あなたに見られていると思うと、安心できるから」
 と小百合は答えた。

 だけども僕は、あまりそれを使う気にならなかった。
 僕はその魔法の鏡を、ずっと普通の鏡として使っていた。そしてそれが魔法の鏡だなんて、いつの間にか忘れていた。

 ある日、僕は同僚の妙子とお酒を飲んだ。
 二人ともさんざん飲んで酔っ払って、終電が無くなったので、僕のアパートに妙子を泊めることにした。
 恋愛感情なんてないし、お互いにただ友達のアパートに泊まるだけ、という軽い気持ちだった。

 だけども部屋に入ってソファーに二人で座ると、お互いを意識するようになってしまった。
 見つめあい、自然に唇を重ねた。最初は軽く触れただけだったが、そのうちにお互いの唇を貪るように激しく舐めあった。
 もう我慢できない。
 僕は妙子をソファーの上に押し倒し、ブラウスのボタンを外そうとした。

 そのとき、妙子が叫んだ。
「ギャーーーー!」
「何、何、何?」
「あれあれあれ」
 と言って妙子が指さした先には魔法の鏡があって、そこには小百合が映っていた。
「鏡に幽霊が映ってるー!」
「失礼ね、幽霊だなんて」
 と小百合が言った。

「どういうことなの、これは?」
「いやいやいや、違うんだ。僕は悪くない。君が悪いんだ」
 と僕は妙子を指さした。
「何で私が悪いのよ?」

 何だか気まずい雰囲気だった。

「ともかく、今日は泊まらしてもらうわよ。終電ないし。何にもしないから安心しなさい。ああ、心配だったらずっと見てればいいし」
 と言って妙子はソファーに寝転んだ。

 そしてもう一度、鏡に映った小百合を見た。

「ああ、気味が悪い君が悪い


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