マガジンのカバー画像

エンターテイナー・ストリート

5,803
甘野充プロデュースの共同運営マガジン「エンターテイナー・ストリート」です。  共同運営マガジンは、みんなで作るマガジンです。  小説、詩、エッセイ、絵、音楽、動画など、想像力と創… もっと読む
運営しているクリエイター

2023年6月の記事一覧

【詩】「Nothing Here」

どしゃ降りの雨にずぶ濡れになりながら街を歩く 部屋にたどり着いても熱いシャワーを浴びられるわけじゃない 言うことを聞かないボイラーは安い家賃の代償 そんなの分かってる始めから分かってる でも気分が収まらない 突然のアクシデントにオロオロしながら電話をかける ベストを尽くしても彼は僕の答に肯きはしないだろう 切り口が見えないエンドレスが僕の人生の象徴 そんなの分かってる多分分かってたはず でも気分は収まらない きっとどれだけ僕が「ここ」にいて 何もかも知っちゃったとしてもこ

生まれる前

肉体のない魂はこの世に産まれ来る前に 「わたしはコレコレこう言う修行をいたします」と約束をして 降りて来る でも実際に肉体をもらってこの世に降りて来るとその約束を全て忘れる 自分の人生、こんなんじゃないと 約束した修行をすっかり忘れる   自分勝手に生きようとする 約束を果たせないから 何回も魂の成長のために生まれ変わると聞かされる 人を恨んだり、憎んだりしない ほこりはさけて通りなさい こころをいかに汚さないように生きるかを思いなさい  と教えてくれている 神様は

【短編小説】便所の柱

【1】 豆腐の角に頭ぶつけてくたばっちまいな!  これはいい。  豆腐なんて柔らかくてあなた、そんなものになんぼ勢いよく頭をぶつけたところで、いや頭に限らず全身をぶつけたところで打撲にすらならないどころか場合によってはふわふわで気持ちがよろしいのかもしれないとすら思えてね。 「だからそんなあり得ないような死に様をさらして死んじまえっていってんだよ、このとんま!」  すっとぼけているとそんなふうに、ちょっとおかしげな空気を湛えつつもそれなりに的を射た罵倒のコトバ、あま

もし、猫がいなかったら

今までに 三匹の猫と暮らしました 最初の猫は 薄茶と白 ミックスの男の子 高校一年の6月 友人の家で三匹の子猫が生まれ その中の一匹を預かりました 名前はコロロ 世話はほとんど母がしてたのに 寝るときは何故かわたしの布団の上 その重みを今も覚えています 二年半後 わたしが家を出るまで一緒でした 6歳まで生きました 二番目の猫は 濃いブラウン アビシニアンの女の子 名前はミーチャン チャンまでが名前です 母の猫でしたが 施設に入り わたしが引き取ることになりました 水道の水

【現代詩】「output」#2

目の奥の脳の奥の視神経の先端がしんしんと音を立てて聳え立つような違和感それは船が舟がフネが漕ぎ出されるその瞬間に女はまるで君を食い殺すような目をして立つそれと似ている決まりのなく明日のない女と男の物語の中に猫が出てきて俺は座り喉を焼くのだガラガラの詰まった喉を焼いて声を美しい魔の人魚の歌声と共に裂いてしまおうコトやがて切り開いてワタを抜いてどこまでも具合の悪い体をなんとか引きずり歩く歩く歩く歩く泣く泣かぬだが想いを届けるまではそれまではこうして気が遠くなる瞬間が何度訪れたとし

【短編小説】読女没落

★「初仕事」>発表されてからかれこれ四半世紀に近い時間が経過し、作家もそれ以来新作を発表しておらず謂わば究極の一発屋という感じもあるのだがその後、日本に於ける文芸、漫画、映像、ゲーム等のエンターテインメント作品に展開される所謂「デスゲーム」の基盤となった小説がある。  あまりにも有名な作品なので題名は伏せるが、この作品はその後有名監督によって映画化され、そのショッキングなストーリーや映像、また当時若年層による凶悪犯罪が多発していた時勢の影響から、公開時の規制を巡って国会での