困難を表現すること――個にとっての重みに辿り着くために
春の盛り。身近にある桜は、ほとんどが散り、咲き始めがゆっくりの幾本かが葉桜になっている。時は、新緑が眩しい季節に移りつつある。死んだ弟、水谷哲史の誕生日3月30日と命日4月27日に挟まれたこの季節は、いつも弟を思い出しながら過ごす。とりわけ、死の一週間ほど前に(ちょうどいまの時期だ)、入院中の精神科病院から一時帰宅していた弟と二人で実家の近くを散歩していて、新緑が春の陽射しに神々しいまでに光り輝いていた一角に同時に立ち止まり、「きれいだね」と言葉を交わしたことは忘れられない。