見出し画像

門前通りは今日も晴れ! その参


これまでのお話はこちらをご覧ください↓


みなさま、こんにちは!ストーリーテラーのフニャさんです。今回は最終話なので、少し角度を変えた写真にしてみましたよ。
でも、やはり首は回せません。


『魔物たちの天下?』

ぷる太郎亡き後、境内の様子は急激に変わっていったのでございます。まず、入り口には
「四つ足の入場を禁ずる」
という立て看板が。はい、完全に四つ足を排除する向きが明確になったのです。私どもも居心地が悪いといったらありません。

そして、例の白猫三兄弟にも妙なことが起こっていたのです。
これは仲見世の誰かが気づいたようで、何でも忽然と二匹がいなくなっていまして、何処へ行ったものか見当もつかないとか。

所詮野良ですから、誰かが拾って育ててくれるならその方が幸せでしょう。ところが、境内には鼠取りのようなものが残されていて、白い毛がびっしりと付いていたと話す者がおりました。
実は、私も明け方近くに白ちゃん達の悲鳴のような声を耳にしています。何があったのか、考えると恐ろしくなります。

仲見世も門前通りも、一見これまで通り穏やかです。ただ、私には見えています。境内にうずまく黒い煤(すす)のようなものが色濃くなっていくのが。


『ぷる太郎の死の謎』

さて、体を失ったぷる太郎は、どうしているのでしょうか。
実は、ぷる太郎の死には神様の計らいがあったのでございます。そもそも、ぷる太郎はもう高齢で、体のあちこちに限界が来ていました。それでも、あれほど元気だったのですから、本来であればまだまだ生きながらえた筈です。しかし、魔物に狙われてはひとたまりもございません。

そこで、あえて神様が一旦連れ戻したのです。ひとまず隠しておき、強く若い体にしてから夫婦のもとに戻す目論見をしていたのでした。もちろん、抜け落ちた牙も戻すためです。

ぷる太郎、姿は以前と同じようになりますが、今はゆっくり休養しながら毛皮の試着などもしている様子。どのような色、柄で帰ろうかと、毎日鏡の前で試着しております。
そして、走ったりでんぐり返しをしたりと、毛皮の着心地の確認にも余念がございません。
何しろ、前回の毛皮はどうも寸法が合っていなかったようで、いつも皮が余っていたのですから。


そう、ぷる太郎は新たな体を貰って戻って来ることが約束されておりました。これを聞かされたときは、私ども駒狐達も皆大喜びしたものです。
ぷる太郎もこの約束を交わしてからは、一心に帰る日を待ちわびておりました。ぷる太郎は、常に強いお守りを心に持っています。それは、あの奥方が繰り返し聞かせていた言葉でございました。

「ぷる太郎は、大丈夫!」
「ぷる太郎は強い子だ!」

それがお守りとなり、何にも負けない強さをぷる太郎にもたらしていたのです。ちゃんと帰れるという強い信念も。
人間はこういったことは通常はわかりませんから、さぞ悲しんでいるでしょう。

ただ、あの夫婦は、ぷる太郎の帰還を感じ取っているようでした。そして、ぷる太郎も遂に新しい毛皮を決めたようなのです。
ぷる太郎は、夫婦に知らせるべく夢枕に立ちました。一体、次はどのような毛皮で登場するのか、私どもも心待ちにしております。


『姿を見せた魔物』

魔物とは、人を惑わし狂わせるものであり、化け物の類を言います。神と呼ばれるものの中には、魔物も紛れていることは多いものです。

して、この神社に入り込んでいる魔物とは、一体?

そもそも、先代の宮司は人格者として知られた人物でした。
あるとき、荼枳尼天に無礼を働いたという者が当神社を訪れたことがございます。それはもう、見るからに落ちぶれた様相でして、荼枳尼天の厳しさをまざまざと見せつけられた感じが致しましたよ。何しろ、食べることもままならず、無けなしのお金でどうにかやって来たと言うのですから。

先代の宮司は、話を聞くなり快く御祈祷を始めました。ご祈祷料はほとんどいただいておりません。そういうお人だったのでございます。先代の宮司は。

ところが、現在の宮司は真逆なのです。お話ししたように、人間の持つ欲をすべて出したような輩で、まったく改める様子も見受けられません。

はい、私はすでに気づいておりました。境内に渦巻く黒い煤(すす)のようなよどみ、夜ごと聞こえる醜い声。あれらを生み出したのは宮司であると。
そして、ついにその姿を見ることとなったのです。


あれは、満月の晩のことでした。
記録的な熱帯夜だそうで、とっくに陽が沈んだというのに、何とも気味の悪い生ぬるい空気が流れております。石像でも、気温の変化には敏感ですから、こういった夜は何とも心持ちが良くありません。

夜道を歩く者もなく、人間は皆涼しい部屋で過ごしているのでしょう。まあ、それも良いもの。今宵は静かに月でも眺めようと天に目をやったとき、またあの声が聞こえてきたのでございます。

「やれやれ、四つ足は成敗したから、次はこやつらを追い出そう」
「しかし、どうやって追い出す?すべてが神社の土地ではないぞ」
「なあに。土地を一切使わせないと言えば、勝手に閉めるしかあるまい」
「何しろ、神社の土地が使えなければ、店から一歩も出られないからな」
「秋祭りと年始は人が集まる。そこまで利用したら追い出そう」

会話のようでいて、やはり声は同じにしか聞こえません。声が近づくにつれ、参道で何かがうごめいているのが見えました。
黒い、煙のような塊のようなものです。微かな空気の動きで流されるのか、ときには広がって薄くなり、そうかと思えばまた色濃くなりながら僅かに移動しています。

月あかりのせいで、それは離れた場所からも良く見えました。見ていると、その煤(すす)のようなよどみは、仲見世一軒一軒に近づきながら移動しているようでした。驚いたことに、その黒いものが近づいた後は、店の前に黒い煙が滞留していくのです。

黒いものに目を奪われていたときでした。

「そうは、させないぞ!」

何者かの声とともに、真っ白な小さな塊が境内に飛び込んでまいりました。まばゆいばかりに輝くので、てっきり満月が落ちてきたのかと思うほどです。
白い光は凄い速さで突き進み、黒い煙のような塊に飛びつきました。同時に魔物の悲鳴が響き渡ります。

「ぎゃーっ!!!」
「しっぺい太郎だ!」

暴れる黒い塊。それでも、白い光は放そうとしません。それどころか、鋭い二本の牙を剥き、魔物に噛み付いているではありませんか。ぶるんぶるんと振り回し、地面に叩きつけるように投げ捨てると、ひらりと舞い降りたのです。

(ぷる太郎!!)

参道に着地した白く輝く光の玉。満月に照らされたそれは、紛れもないぷる太郎の姿となっておりました。
(おお、なんと。神の使いと言われる白い毛皮で戻ってくるとは)
私は、これほど感動したことはございません。

ぷる太郎は、その姿を見せた後、再び夜空へ去って行きました。


翌朝のことでございます。
しらじらと明るくなる中、奇妙な物体が参道に転がっているのが誰の目にも明確に見えました。
人間の顔のような造作でありながら、毛で覆われた妙な生き物。ひひのようなものなのでしょうか。

その顔は鋭い牙で引き裂かれておりまして、すでに息絶えていたそうでございます。
そして、不思議なことに、その日から宮司が忽然と姿を消しました。宮司の住居からは、どういうわけか猫の毛や骨が大量に出てきたそうでございます。
そもそも、この神社にいたのは本当に人間の宮司だったのかは、最早さだかではありませんが。


『門前通りは今日も晴れ』

さてさて、一時はどうなることかと案じた当神社でしたが、今ではすっかり以前の明るさを取り戻しておりまして、仲見世は大賑わい。門前通りには屋台も並び、恒例の秋祭りとなりました。

そして、めでたいことがもう一つ。
ぷる太郎が無事に新しい体を神様からいただき、あの夫婦のもとに戻ってきたのです。はい、私は存じておりましたから、驚くことはございません。夫婦も、ぷる太郎から夢で知らされていたようで、無事に迎えることができたようです。

「めでた屋」の店主も陽子さんも、生まれ変わったぷる太郎に大喜び。
「四つ足の入場を禁ずる」
の立て看板も早々に撤去され、ぷる太郎のお犬様仲間もまたやって来るようになりました。閉店に追い込まれた店も、また商売を始め、仲見世は一層賑やかです。


ところで、当神社は近くに鎮座する二社神社の宮司が兼任することとなりました。もともと、当神社よりもずっと歴史が古く、この地域の総鎮守となっている由緒ある神社です。巫女達も戻ってまいりました。

ここは、そもそも寺であり、神仏分離の際に小さな稲荷社を前面に出した神社。それが観光地となって人が集まり、先代の宮司が亡くなった隙に欲に駆られた魔物が入り込んできたのでしょう。欲にまみれた者はよどみを作ります。
しかし、忘れてはいけません。ここに人が集まるのは、古くから商いをして盛り立ててきた仲見世の皆様の人情があってこそなのですから。

猫塚も建立され、手厚く供養されました。そして、ようやく神域が戻ってきたのです。

門前通りは今日も晴れ。楽しいのが一番です。人や生き物が集って笑いが生まれれば、福も集まって来るのですから。

《おわり》

※このお話はフィクションです。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?