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生きづらい人生には、ナレーションをつけて

 『大豆田とわ子と三人の元夫』をとても楽しみにしている。わたしのだいすきな東京03の角田晃広が出ているので、放送前から観ようと決めていた。友人からも「大豆田とわ子見た?角ちゃん出てるよ!」とわざわざ連絡がきたくらいである。

 先ほど二話の放送があった。録画をしているので、明日にでもゆっくり見ようかなと思っていたが、始まったらテレビの前から動けなくなり、岡田将生バージョンのエンディングまできっちり見てしまった。

※ここからは二話の内容に少し言及するので、ネタバレにご注意ください。

 今回放送された第二話でスポットライトが当たるのが、岡田将生演じる三番目の夫、中村慎森(なかむらしんしん)である。

 彼はとわ子の会社『しろくまハウジング』の顧問弁護士である。(ちなみにパンダに目がない、名前との因果関係は不明)職場が同じであるため、夫たちの中では、最も接触機会が多いのではないだろうか。事実、二話では会社ですれ違ったり、会議に一緒に参加するシーンが何度も出てくる。

 そんな彼の口癖は「それ、必要ですか?」である。

 会議のシーンでは、会議前にありがちな、アイスブレイクに対して、「それ、必要ですか?」と発言し、旅行のお土産に対しても、「それ、必要ですか?」と水を差す。周りは気を遣ってか、なにも言わないがどことなく、めんどくさいな~という雰囲気を醸し出しているのは言うまでもない。

 他にも、とわ子との会話で「俺、めんどくさい?」と聞いたり、とわ子とうたと二番目の夫である佐藤鹿太郎がチーズフォンデュを囲む中で、チーズフォンデュの底にセミの幼虫が溶け込んでいた話を披露したりして、挙句、とわ子には無視しようと言われる始末だ。

 そう、彼はとにかくプライドがとてつもなく高いのである。わたしはこういう人いるよね~と思いながら、先日こんなことがあったのを思いだした。

 撮影のために、車で長距離移動する機会があった。片道三時間という長丁場だったので、口数も減り、車内にBGMしか聴こえなくなったころ、「学生時代に流行っていた曲ってなんですか?」とひとりが発言した。

 車内にはわたしと同年代の23歳がひとり、あとは20代後半ふたり、30代がひとりの計五名が乗っていた。世代がバラバラなので、共通の話題としては悪くない。運転手も疲れているだろうし、ここはひとつ盛り上がりたいところである。

 世代の設定は各々の高校生ということになった。みんなが知っていて、流行っていた曲をぼんやりと思い起して、「セカオワとかワンオクですかね?」と発言した。セカオワはSEKAI NO OWARI、ワンオクはONE OK ROCKの意だ。

 すると、すかさず「ないわ~」と返ってきた。同年代の男だった。はあ、そうか。と思い直し、「クリープハイプとかサカナクションですかね?」と言ってみる。

 すると、またしても「あ~ないわ~全然聞いてなかった」と返ってきた。もちろん同年代の男だった。

 車内に気まずい空気が流れる。どうやら彼とわたしは趣味嗜好が合わないようだ。

 しかし、今回の論点は流行っていたか、どうかであり、個人の趣味嗜好の話ではないはずだ。流行っていなかったよ、と言われるならまだしも、彼が聴いていたかどうかはそれほど重要ではない。

 とはいえ、彼はもっとピンとくる回答ができるのかもしれない。じゃあ、どんなの聞いていたの?と聞いてみると、「え~なんだろ?あんまり思いだせないや」と返ってきたので、思わず、心の中でめんどくせ~と叫んだ。

 彼は一体何がしたかったのだろうか、自分は凡庸ではないというアピールかはたまた、ミーハーな私に対するマウンティング行為だったのだろうか。

 わたしは彼をとてもめんどくさく、プライドの高い人間だと思った。しかしながら、そう思うわたしも、まためんどくさく、プライドの高い人間なのだ。第二話を見ながら、これが同族嫌悪か、と気がついた。

 慎森に「めんどくさい?」と聞かれて、とわ子は「めんどくさくないよ、気にしてもないよ。だってもう他人だもの」と告げ、最後に「でも、一緒に生きているとは思うよ」と伝える。

 他人と自分をきちんと切り分けるということは、当たり前のようでひどく難しい。結論、人は自分の基準でしか生きられず、慎森のようにコミュニティに馴染めないこともある。

 他人に干渉せず、期待しない大豆田とわ子の器の広さにはとても感服してしまう。これまでどんな人生を歩んできたのか、そこにヒントがあるのかもしれないと考えると、ますます今後の展開が楽しみだ。

 余談だが、実は伊藤沙莉のナレーションがさらに客観性を引き立てているのかもしれない。ナレーションをつけたら、もっと客観的に生きられるだろうか、と双目糖子は記事を書きながら、ぼんやり考えるのだった。

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