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*読了11冊目*『イーロン・マスク上』

『イーロン・マスク 上』ウォルター・アイザックソン著 を読んだ。

いやはや凄い。
何人もの人間が何百年もかかって成し遂げるような変革を、たったひとりで20~30年のあいだにやってのけている。

確かに大天才であるが、余裕しゃくしゃくで進んできたわけではない。
常にお尻に火が付いた状態で危ない橋を渡り続けている。
それを彼は「生まれてこのかたほぼずっと危機対応モード」と表現している。

南アフリカに居た子供時代、家では父に学校では友人に傷つけられた。
そんなイーロン少年は『銀河ヒッチハイク・ガイド』という本を読んで宇宙に飛び出すことを夢見た。

またこの時期「生きること、死ぬこと、人間はなぜここにいるのか?どんな意味があるのか?」についてとことん考えた。
その結果、おそらく結論した。
「とにかく生き延びる、地球人を生き延びさせる、それが僕の使命だ」と。

この本は上下巻に分かれていて、上巻は主に電気自動車(テスラ)と宇宙開発(スペースX)事業の起ち上げから試行錯誤と失敗の連続、そしてどうにか軌道に乗るまでの悲喜こもごもが描かれている。

イーロンはひとつの事業を成功させると、出た利益のすべてを次の事業に投入する。よって懐は常に火の車だ。
手がける事業が増えれば増えるほど、同時並行で問題が勃発してあっちもこっちも火の車である。
その火柱の中をアチチ、アチチと飛びはねながら渡り歩き、それでもなぜか無事に渡り終えている。

だからこそ「運のいい男」と言われているのだろうが、いやいや実力だろうと思った。
少なくともここに描かれている彼の姿はそうだ。

まずほとんど寝ていないと思われる。
たとえばロケットに使われる小さな部品ひとつに至るまですべてに口出しをする、つまり知り尽くしている。
暇さえあれば現場に行って手を動かしている。
そうしている間にもアイデアは次から次へと降りてくる。
たとえば「自宅から職場までの道が渋滞する」と思えば「そうだ!トンネルを掘ろう」ということでボーリング・カンパニーというトンネル掘削工事の会社を作ってしまう人なのだ。
ただでさえテスラとスペースXで手一杯のところへ。

そしてその決断力は自分の事業の範疇に収まらない。
2018年。タイのサッカーチームの少年12人とそのコーチが、洪水によって洞窟に閉じ込められた事故を知った時には、即座に潜水艦をこしらえて自らタイに持ち込んでいる。
結局ダイバーによる人海戦術で少年たちは救出されたので、潜水艦の出番は無かったのだが、やると決めたら即やるのである。
そのバイタリティとフットワークの軽さには舌を巻く。
これもイーロン・マスクの掲げた夢が「大富豪になる」ではなく「人類を救済する」というところにある証拠であろう。

それだけ必死で人類を救おうとしているのだが、目の前の人間には手厳しい。バカだのクズだのの暴言は日常茶飯事、使えない社員はバッサバッサと切り捨てて行く。
敵は多く味方の少ないイーロンを、ずっと支え続けた弟のキンバルだが、その弟の会社が財政難に陥った時に「資金援助をしない」と決断をしたのには驚いた。
肉親にさえも容赦ない。
良く言えばどんなしがらみにも縛られていない。
それもこれもイーロンの視点が遥か遠くを見つめているからだろう。
よって身近な人の心の痛みには気づけない。

人間の視点は同時にいくつもの場所を見ることができない。
フォーカスできる場所は常にひとつ。
遠くを見ている人は近くを見ることができないし、近くを見ている人は遠くを見ることができない。

マザーテレサの言葉で「世界平和を願っているのなら、まず自分の家族が相互に愛し合うことから始めてゆきましょう」という言葉があるそうだが、まさにこの真逆を行っているのがイ―ロン・マスクかもしれない。

だが、おそらくどちらも必要なのだ。
遠くを見る人も、近くを見る人も。

我々には到底見えない、はるか彼方の宇宙を見据えている人物、イ―ロン・マスク。
こんなに面白い人物がいることに感謝するのと同時に、この自伝を彼が実際に生きているあいだに読むことが出来ていることに感謝する。

下巻はTwitter買収劇と人工知能AIに関する内容になっているらしいので、さらに興味深い。






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