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これまでのお話

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2020年7月の記事一覧

カメラを止めないで

 映画を撮りたいと思ったのは19歳のころ。でも何から手をつければ良いのか分からず、大学の掲示板にあった貼り紙を頼りに映像研究同好会に入会した。
「好きな映画は?」
「ゴーストワールド」
「知らないなあ」
「……」
「映画を志したのはどうして?」
「映画の世界に憧れたから」
 ぼくの答えに彼女は沈黙で返す。突き返されるかと思ったけれど、「いいね、素敵」と笑われて終わった。やたら匂いのきつい煙草が印象

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終わり、あるいは始まり

終わり、あるいは始まり

 目が醒めて雨の音が聞こえると、かえってわたしの心は晴れやかな気持ちになった。寿命が一年延びるような、感謝の思いでいっぱいになる。
 ピアノを弾くのが許されたのは、雨が降った日か、親がいない日のどちらかだった。前者は親が決めたこと、後者はわたしが決めたことだ。
 雨が降った日は気分がいい。親がいなければ尚良かった。わたしは今にも踊り出してしまいそうな気持ちを抑えつつ、ピアノカバーを払い退け、椅子の

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