神に愛されていた
「神に愛されていた」木爾チレン
窪美澄さんや町田そのこさんが書評をされていて、
「女にだけわかる狂気」
この一文に惹かれ、購入。
主人公、冴理は自身に小説の才能があると信じて疑わなかった学生時代を過ごし、とんとん拍子で小説家の道へ。しかし、自身の後輩である天音は美しく、そして「神に愛された」ような小説を書く。
自分と天音の差、世間の評価、思うように進まない執筆に恋愛。
打ちひしがれ、絶望し、感情は変化し…。
ざっくり解説でこんな感じです。
2023年ヒューマンミステリーとうたれていたのでもっとグロテスクなものを想像していましたが、そういった描写は全くないです。
最近、猟奇殺人系のグロ!グロ!グロ!!!なものばかりを読んでいたので、早とちり。
女の狂気、とありますが冴理・天音ともに「純真無垢」な印象を受けました。
文体は軽く、スルスルと読ませてくれる分ドロリとした湿っぽくて泥に塗れたような感情の重さを少し感じにくかったな、と。
冒頭の一文、
「ピアノの鍵盤を弾くように中指を乗せると、埃たちが一斉に目を覚まし、小窓から差し込む陽だまりの中で光りながら踊り出す。」
ありありと情景を思い起こされて、とても好きな一文です。
頭を捻るような文もなく、ただ穏やかに。そう見せかけた文体の中で煮えたぎり今にも爆発させてしまいそうなエネルギーを持った二人の小説家。またはそれらを支えてくれる人たち…。
それらを表現された物語だと思いました。
黒紅
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