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瀬戸正洋句集『似非老人と珈琲―薄志弱行―』一句鑑賞と十句選

あまりよいにんげんではない暖冬


自虐の句に見える。

しかし、「わたしは正しい、あんたは間違っている(なぜなら、わたしはよいにんげんで、あんたはわるいにんげんだから)」と、意見の異なる他者を攻撃する人より、はるかに謙虚で誠実な態度だと思う。

思えば、人は皆、「あまりよいにんげんではない」のかもしれない。

「薄志弱行」でも、時に自虐的でも、己自身や「暖冬」の現実をそのまま受け入れて生きてゆく。

そもそも「にんげん」って何だ、という哲学的な問いがこの句には潜んでいるかもしれない。

……いや、そんなこと無いか。

温め酒心配事のあるにはある
夏深し上からの命令だから困る
ないところにはないあるところには小豆
相談に乗つていただけますかと熟柿
なんとなく憂鬱なんとなくかなかな
木の実落つ書くことはいくらでもある
反戦歌とは恋歌のこと牡丹の芽
ふらここや男性ホルモンが足りぬ
へりくだることは大切赤い薔薇
神の留守泥船も十分に舟である

句集『似非老人と珈琲―薄志弱行―』より

瀬戸正洋 『似非老人と珈琲―薄志弱行―』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)


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