StoM 最終章 読了3分(全5話)
前回までのあらすじ
ふとしたことがきっかけで桜田まりなとつきあうことになった雄太郎。同時に雄太郎は桜田まりなにSMを強要されるようになる。SMはやりはじめると奥が深く、なじんでいく自分に頭を悩ませる雄太郎だった。ある日、まりなから脱糞を強要され、なんとか逃れた雄太郎だったが…。
StoM 第5話 最終章
俺はベンチに腰かけてバッグからムチを取り出してみた。ほんとに叩くのに慣れるのかな。ムチを広げて少し振ってみたがうまく触れない。まりなはムチを貸す時に、これで勉強しなと、一緒にSM雑誌を貸してくれた。雑誌を開くと女性がうれしそうにうんこまみれになって笑っている姿が目にはいった。
脱糞か、それだけはいやだ。そう思うと急にお腹がなり、便意をもよおした。おいおい、だめだぞ、俺、いやあ間に合わないな。さっきプレイの後に飲まされたドリンクがいまごろ効いてきたみたいだ。
とても今からトイレの場所まで移動する時間を我慢できるとは思えない。そう思うとなおさら便意が襲ってきた。
俺は公園を愛するすべての人に悪いとは思ったが、ベンチの後方の林の中に足を踏み入れ、南国の風が似合いそうな木の陰に身をかがめると、思い切りパンツを下げしゃがんだ。勢いは止まらない。ブリブリブリブリブリ、まりなにおまじないでもかけられたのか、思い切り大量のうんこが肛門から噴き出したのだった。
しばらくの間俺はしゃがんだまま、思い切りうんこをまき散らした。腹の中の不用物を出し切ると、温度感を持った匂いが鼻を突いたが、俺はほっとした。その時だった、後ろの暗闇から何かが俺に乗っかってきた。ずっしりとした重みだ。
俺は尻もふかずパンツを上げながら立ち上がった。後ろからのっかってきたのは形状と重さからどうやら人のようだった。暗闇だからよくわからない。
手を差し伸ばすと固いものが触れた。しっかり握って明るい位置まで移動して見る。
それは、先端に大量の血がついたナイフだった。
「ひえーーー」
俺はナイフを投げると、腰を抜かしそうになりながらそこから走り去った。少し走ると休憩所の建物の自動販売機の前にまりながいた。
「まりな、何してるの?」
息を切らしながらまりなに話しかける。
「ああ、始まったのよ、女の子が。つまり生理ね。ちょっときつくてさ、ごめんね帰りがおそいなあって思ったんでしょ、ほらどうぞ」
手に渡されたのはホットの缶コーヒーだった。やけに暖かく感じた。俺はさっきの出来事を話そうとして、踏みとどまった。
待てよ、ここで話すと当然のことながら林の中で何をしていたかということを言わなければならない。まさかうんこ?都合よくとらえられるなら俺は脱糞の練習をしていたように思われないか。できれば辞めたいと思っているSMなのに、これを言うことで次からは脱糞ありきにならないか。
そんなことが頭をよぎり、俺は話をするのをやめた。たぶん、いや確かに血が付いたナイフだったが、俺に乗っかってきたのが刺された人だとは限らない。しかも俺が人を殺す理由なんかないじゃないか、しかも今日はまりなと一緒にいたし。
そんなことを考えていると、さっきの出来事なんか何ともないことのように思えてきたのだった。
「ゆうたろう、どうした?なんかあった?」
さすが女王様というべきか、気が付かれたが
「いやなにもないけどなんで?」
「いや、なんとなく恐れている気がするからさ、何もないならそれでいいや、あ、今日さ時間あるから、どこか飲みに行こうか」
「あ、ごめん今日さ、ちょっとこの後用事があってさ」
俺は何としてもこの場から去りたかった、これ以上まりなといっしょにいると色々話しそうだ。
まりなと、じゃあまたね、と挨拶を交わすと、このまま帰って母親と顔を合わすのは気が引けて近所の居酒屋に入った。
カウンターと窓側にテーブル席が2つあるだけの、夫婦できりもりしている小さな居酒屋だ。昼は定食屋をやっているらしく、酒のつまみもそこら辺の居酒屋とは比較にならないくらいうまい、と俺は思っている。
店に入ると7.8人くらいの客がいて、俺は一つだけ空いていたカウンターの端の席に座った。その席の上の方の棚には小型テレビがあるから、俺はその場所が好きだった。一人で暇だからいつも顔を上げてテレビを見ながら酒を飲む場所だ。
ただ、そこにいるとみんなテレビを見るから、テレビの真下にいる俺は同時に視界に入ることになる。
俺はまず生ビールと枝豆をまずたのんだ。オーダーすると急にお腹がなった。
そうだ、俺はハードなプレイをしてきたばかりじゃないか、そう思った時だった、さっきのベンチにまりなから借りたムチとSM雑誌を忘れてきたことに気が付いた。
取りに帰ろうか迷ったが、まあいいか今度会ったときに謝ろればいいじゃないかと思った。生ビールがきたのでぐっと飲み干すと、そんなことなどどうでもいいような気持ちになった。もはや母親とも平気で話せる気がしてきた。
何気なくテレビから流れてくるニュースを見ていると、見慣れた公園が映しだされた。
「緊急ニュースが入りました。港区青山の公園でさきほど殺人事件が発生したようです。亡くなったのは港区に住む専業主婦だそうです」
公園は俺がさっきまでいた公園だった。嫌な予感がして見ていると、殺されたのは昼間俺に子供のことで言いがかりをつけてきた母親だった。死因はナイフで何回も胸を刺されたことだった。
「ちょっと、ね、異常というか」
顔の知れた男性アナウンサーが何か言おうとしているが言いにくそうだ。
「どのように異常だったんでしょうか」
女性アシスタントがそこに突っ込みを入れた。
「亡くなった女性は、そのなんというか、人糞というのでしょうか、人糞の中に顔を突っ込んで亡くなっていたようです」
その糞は俺が我慢できずにまき散らしたうんこだということはすぐに理解できた。俺のうんこの中で死んだのか。かわいそうに少しはかわいい人だと思っていたのに。
「えっと、犯人の目撃者が何人かいるようです、一人は公園の管理人みたいですね」
そうやって映し出されたのは、俺と母親の仲裁に入ったおばさんだった。
「それはもう犯人は、被害者の女性からものすごい剣幕で怒られてましたからね、恨みは持つかもしれませんね」
いい人だったおばさんが悪い人に見えた。
「まだ目撃者がいるようですね」
いったんスタジオに戻ったマイクが再度、現場の公園に戻された。次に証言をしていたのは、3人の女子中学生だった。
「めちゃエロい目でダンスする人見てたよ、あれやばすぎよ、えっとねたぶん20代半ばくらいのね男の人、見た目はさわやかなんだけどね、目がやばかったよ」
そのあたりで、どうやらこの人たちが言っている犯人は俺に間違いないということが理解できてきた。
「あの木村アナ、現地にはどうやら犯人が持っていたと思われる証拠品が残されていました」
そうやって映しだされたのは俺が忘れてきたムチとSM雑誌だった。やばいぞムチにはしっかりと俺の指紋が付いているはずだ。いやそれよりもっとやばいのは俺は一度握りしめたナイフを慌てて捨てたじゃないか。
心臓が高鳴るのがわかった。額からは冷たい汗が噴き出している。
そっと周りを見渡すと、店の客全員がテレビに見入っていた。つまり同時に俺を見ていることににもなる。ここは犯人の似顔絵が出る前に店を出た方がよさそうだな。
俺は食べかけの付け出しと、飲みかけのビールを残し、支払いを済ませて店を出た。
警察が俺のことを突き止めるのも時間の問題だろう。家に押し入ってきた警察に向かって母親はきっとDVDのことを言うだろうなあ、DVD置きっぱなしだし。しかも5枚だ。
肝心のまりなはアリバイがちゃんとあるから、俺と一緒にいた証言はしてくれないだろう。どう前向きに考えても俺が犯人に違いなかった。このまま俺は殺人犯として捕まってしまうのか。
狭い路地を歩きながら空を見上げると月が出ていた。月に桜田まりなの顔が重なって見えた。あの時一緒に飲みに行けばよかったな。社会の底辺から見上げる月はとても明るく見えた。
了
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