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日記 第5話 (読了2分)

前回までのあらすじ
会社でパワハラを受けていた西澤祐樹は、パワハラ野郎とのケンカを機に長期休暇をもらった。離婚をしていた祐樹は新しい同居人を探すべく結婚相談所に来ていた。

日記第5話

広いエントランスにブースがたくさんあったが、さきほどの相談所より相談している人が少なかった。ブースで三上さんと向かい合う。

「奥様は逃げるように出て行ったとか」

「そうなんです、こっちは悪くないんですが、なんか勘違いしたみたいで」

「SMをしていたと」

「はい、ああ、私はしませんよ、趣味じゃないし、熟女パーティもいったことないし、でも年上でもいいとさっきのアンケートには書きましたが」

三上さんがまじめな顔で聞いているから、祐樹は少し恥ずかしくなった。

「あのーどういった方をご紹介いただけるんでしょうか」

何をしているのかわからず、祐樹は質問してみた。

「もちろん西澤さんのお好みの女性をご紹介しますよ、でもその前に色々とお話を整理した方がいいと思いまして。たとえば相手の年齢、上でも下でもいい、というと数百人に会わなくてはならなくなります。もっと絞り込んだ方が」

「確かにそうですね」

「それから部屋の中に怨念が漂っているのはよくありませんね」

「私もいやなんですよ、わかります?」

「怨念が漂うと嫌なのは誰でも同じですよ」

「ああよかった、みんな三上さんみたいな人だといいけど」

「ありがとうございます。では、ここで提案があります」

「はあ」

今までになかった単語だったから聞き直した。

「はい、これから1週間日記をつけてください」

「日記?ってあの日記ですか」

「そうです、子供の時に夏休みに書いた、あの日記です。大人だから絵はいりません。それを一週間書いて私に見せてください。できますか?」

「まあ、1週間ですよね?それくらいなら」

「その代わり約束してほしいのは、正直に書くこと、何をしてなにを思ったのか、どう思ったのか。これもできますか?」

それくらいならできると思った。

「もちろんです」

「それともう一つ約束してください」

「はい」

ここまできたら三上さんとならどんな約束でもしてもいいと思っていた。

「その日記を私以外の人には見せないでください、できますか?」

それが一番できそうに思えた。三上さんが天使に見える。いや自分にとっては天使だ。

「もちろんできます」

祐樹は薄い日記帳を三上から受け取り、相談所を後にした。

久しぶりに心が弾んだ。仕事をしている間も、休暇に入ってからもこんな気持ちになることはなかった。もしかすると今の仕事を始めて以来5年間、こんなに希望に満ちた気持ちになったことはなかったかもしれない。

時計を見ると夕方4時を指していた。八重洲はまだ仕事をしている人ばかりだ。少し曇り気味の空の下で、人と時間が追いかけっこをしている。歩く人の顔は皆とてもつまらなさそうに見えた。

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