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PS.ありがとう 第6話 (読了2分)
「わあい、美里ちゃんに言わないと」
とてもうれしそうだ。
「そうね、お礼を言っといて」
「うんわかったー」
美羽が寝た後、祐輔の晩御飯の準備をし、ノートパソコンを立ち上げる。ブーンという音がする。パソコンに向かうとひどく肩が凝っている気がする。画面が開くまでの間、両肩を上げ下げしてほぐした。画面が落ち着くのを待ちネットを開いた。
最近、東京の不動産を検索して部屋の間取りを見るのが日課になっていた。港区、新宿区あたりの物件を見ていた。部屋の間取りや、近隣の風景。若いころに生活をしていた空間が再び目の前に広がる。夢気分で画面にかじりつく。
祐輔が不倫をしているかもしれないという話を聞いてから、東京行きの話がかなり近付いた気がしている。かといって理由があるわけでもない。
「なんて言おうか、不倫してるって聞いたわよ、許すから東京行っていいでしょ?」
口に出してみたが、おやつを盗み食いした子供の言い訳よりひどい気がした。
目を閉じる。暗闇の中から漏れてくる小さな光に向かって歩いていくようだ。その光はいつになったら大きくなるのか分からない。
とても細い希望の糸だが、つなぎとめないわけにはいかない。
レイナちゃんママが教えてくれたおかげで自分の夢が明確になった。そう思った瞬間瑤子はペンを手にしていた。
少し前に美里ちゃんママに手紙を書いた時の快感にも似た感触をもう一度味わいと思った。
“今日は色々教えてくれて、ほんとにありがたかったわ。いつもちょっとしか話さへんけどまた話してな。ずっと友達でいてください。PS.ありがとう”
本当に短い手紙だったが、最後にありがとうと書く瞬間、体を電気が走ったような気がした。ありがとう、なんていい言葉だろう。
「これからも感謝せえへんとな」
心のコップから喜びみたいなものがあふれ出てくる。明日も頑張ろう。そう思うと大きなあくびが出た。
背中を疲労感がべったりと覆っている気がした。
「たまにはいいだろう」
祐輔が帰宅する前に床に就いた。
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