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少女A 第3話 (読了3分)

優香との約束は夕方の6時だ。大学の講義が午後の3時には終わったので、待ち合わせまでブラブラしておこうと思い、早めに約束の場所に行った。

待ち合わせ場所は江東区豊洲にある大きなショッピングモールだ。なんとなく気が滅入っていたので、洋服でも見ながら気を紛らわそうと思い、琴美は一度3階のフロアに上がると、そこから興味のあるショップ巡りを始めた。

何度も買い物に来ているから、どこに何があるのかはほぼわかっている。エスカレーターで3階から2階に降りる途中で携帯がなった。表示が出ていない。もしかして、と思って電話に出ると、優香だった。

「いまどこ?」
優香がちょっと急いでいるような様子で聞いてきた。
「もう約束の場所に着いてるよ、早めに着いたからうろうろしていたところ、あ、ちょっと待って」

琴美は一旦立ち止まり、歩行者の邪魔にならないように、人が歩いていない場所まで移動してスマートフォンを持ち直した。

「どうしたの?」

「もう着いているのね。ごめんちょっと遅れそうだから、場所を変えたいんだけど、いいかな」

「いいよ、どこに行けばいい?」

優香から指定された場所は、ショッピングモールから歩いて十分くらいの場所にあるバス停だった。スマホに表示された時間を見ると、まだ時間は充分にある。喉がかわいたので、琴美は目の前のカフェに入った。
 
琴美はカフェで読みかけの本を読んで時間をつぶした後移動した。約束の10分前にバス停に着いた。バス停には幼児を連れた女性が座っている。バスを待っている人はその他に野球チームのキャップをかぶったおじいさんが1人だけだ。

2組の邪魔にならないように琴美は歩道の後ろのブロック塀を背中にして立った。ショッピングモールから離れるとこんな場所もあるのか、と琴美は狭い道路と暗い路地に少しとまどった。駅から歩いて来たのだが、15分くらいかかった。

10月になって、夕方暗くなる時間がだいぶ早くなったように感じる。昼はまだ暖かいが朝と夕方は薄いコートでもかけていないと体が冷える。琴美は少し肌寒さを感じて、バッグからスカーフを取り出し首に巻いた。

優香から連絡をしてきたのは、自殺をしたもえのことなのだろうか。もえのことは気にはなっていたが、もともと思い込みの激しい子だったから、自殺したことを知っても、琴美はそれほど以外だとは感じなかった。

ただ、私たちは二度と会わないようにしようと約束したのに、今更どういうことなのだろう。嫌な予感だけが琴美の胸の中でうずまき、口の中に苦いものがこみ上げてきた。できれば会いたくない、ずっともやもやしていた気持ちがはっきりしてきた。

「琴美さん」

女性の呼びかける声で琴美は振り向いた。



川崎駅から20分くらい歩いたところにその家はあった。

「やっぱり車で来た方がよかったんじゃないですか」

田口が左手でスマートフォンの地図を見ながら言った。右手にはハンドタオルが握られている。10月だというのに気温が高かった。歩いていると額から汗が流れてきた。

「駅からの距離を考えたら車は逆にじゃまなんだよ、いい運動だろ」

桐谷が乱暴に言った。

藤野もえの交際相手は、すぐに取り調べに応じた。

男の話だと、海外旅行に行く予定があったため、藤野の部屋には旅行に行く費用を借りようと思って行ったが、呼び鈴を鳴らしても出なかったので、いないと思い帰ったという話だった。隣の部屋のゆう子という女性は男が帰るところに出くわしたようだ。指紋が残っていたのは以前来た時の物だと思われる。男には殺しの動機も証拠もなかった線が強かった。今更捜査対象には上がらないだろう。

本部は自殺と断定、遺書があることが大きな決め手だった。捜査は打ち切られた。納得がいかない桐谷は田口を連れ単独で捜査を続けていた。

ひっかかっているのは、前の週に部屋で話をしていたという“ゆう”という女の存在だ。なぜか、部屋からは、亡くなった藤野もえと、交際相手の男以外の指紋が出ていなかった。

さらに桐谷の触覚を震わせる情報が出てきた。桐谷は半年前に横浜で同じ年齢の少女が自殺をしていたことを知った。

なんとなくにおった。これは長年、刑事という仕事をしてついた勘だ。名前は木下佳奈美。遺書があった。自殺した場所は横浜だが、調べていくと、以前、調布に住んでいたことがわかった。さらに生い立ちを探ると、自殺した藤野もえと木下佳奈美は同じ中学校を卒業していた。捜査をしない理由はない。

「あ、そこ左に曲がったところです」

人通りの少ない閑静な住宅街の中を男2人で歩いている。見方によっては不審者に間違えられてもおかしくない。四つ角を左に曲がると、2階建ての一軒家が見えた。

「あれですね」

少女A 第4話へ続く

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