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世界親衛隊 後編 読了3分

潜水艇は潜水艦を小型にしたもので、無人のものから2,3人が乗れるものもある。主に海底捜査や軍事用に使われている。今回のは軍事用で、先の方に魚の顔が描かれていたが、サメではなかった。

新型の潜水艇は自動車と同じコクピットになっていて、自動車の運転ができる人であれば、少し訓練すれば操縦できるものだった。

研修には色々な国の人が参加しているからか、全ての研修は英語で行われた。研修生同士の会話も全て英語だ。20人いる研修生の中で日本人は雄太郎と拓哉、もう1人は女性で計3人だった。

研修とは名ばかりで実際は訓練と言ってもいい。過酷で、海を2時間以上泳がされたり、砂浜を数十キロランニングさせられたりしたが脱落する者は1人もいなかった。

研修を受けていると徐々に世界親衛隊のやるべきことがわかってきた。
世界で猛威を振るっている感染症ウィルスは、キャロ星という惑星からきたキャロ星人という宇宙人がばらまいていた。キャロ星人は地球の海底に基地を作っているので、潜水艇で基地を破壊するというのが世界親衛隊の目的だ。

潜水艇は「マグロッチ」という名前で、ものすごいスピードで海底を進む。ハンドルの横にはミサイルのスイッチがあり、スイッチを押すと勢いよくミサイルが飛び出して、狙った物体を逃さず破壊した。
何と誇り高い職務なんだ。研修がすすむと研修を受けている者は、徐々にそれなりの考え方や態度に変化していった。研修は1年間行われた。

いよいよキャロ星人の基地を破壊する日が来た。

20人の操縦士は2人ずつチームを組み10艇のマグロッチに別れて乗り込む。10艇のマグロッチはキャロ星人の基地を全方向から取り囲んで、ミサイルで一気に破壊するという計画だ。ただキャロ星人も黙ってはいない、反撃もあるだろうから厳しい戦いになるという。
研修を受けた者たちは、それでも世界の人達のために戦う心持ちになっていた。

雄太郎の同乗者はガーナ人女性のアクアだ。
「ハイ、ユウタロー」
「ハイ、アクア」
千葉県沖から潜水艇で6時間移動した海底が目的地だ。10艘が計画通りの配置に着く。
標的になるキャロ星人の基地は巨大で、海底に立ったスカイツリーのようだ。
「オウ、ソービッグ」

アクアが目を丸くしている。リーダーが無線で合図を送ってきた。

「5,4,3,2,1,ゴー」
ズキューンという音とともに一斉にミサイルが発射された。ほどなくしてミサイルはバリヤみたいなものに跳ね返されてゆらゆらと海底に沈んでいった。

すると基地から小さな戦闘型潜水艇が数艇出てきた。操縦席には絵にかいたような緑色の宇宙人が顔をのぞかせている。

潜水艇はそのまま海上に上がると、そこから小型爆弾を海底のマグロッチ向けて落とし始めた。
落ちてきた爆弾で数艇のマグロッチの一部が破壊された。
「反撃だ!」
マグロッチから上向きにミサイルが発射される。何発かが海上に浮いた敵の潜水艇に命中したようだ。

徐々にマグロッチを水面に近づけていく。今度は海面にマグロッチの頭を出し、海上での銃の打ち合いになった。
ダダダダダダダダダ。

マグロッチの上部に取り付けられた銃を発射する。
キャロ星人が乗っている潜水艇は海上に浮かぶと屋根が格納されて、ジェットスキーのような形になり、思うがままに操縦できるようになっていた。
ただ海上での戦いはこちらに分があるように思えた。マグロッチの頭から突き出た銃口を、操縦席から操ることができるので身に危険が及ばない。

銃はキャロ星人の潜水艇を次々に破壊していく。キャロ星人は攻撃に耐え切れず基地に引き返したり、海上に機体を乗り捨てて海に飛び込んだりした。
そのうちマグロッチの一艇が、駆動プロペラを破壊されたらしく動かなくなった。マグロッチのハッチから人が出てくる。外に出た仲間は危うく銃でやられそうになったが、海上に身を投げ出して命拾いをした。
海上に浮かんでいるのは拓哉だった。
「拓哉!」

思わず雄太郎は声を上げた。このまま海上にいたらキャロ星人の銃でハチの巣だ。一瞬、雄太郎の脳裏に学生服の拓哉の姿が浮かんだ。
「拓哉待ってろ、今度は僕が助けてやる」

そう言うと、雄太郎はベルトを外し、上部のハッチの扉に手をかけた。
「ノー、ユータロー、ストップ、ドントゴーアウト」
アクアが大声で叫び引き留めようとしたが、雄太郎は手を振りほどくと、勢いよく外に飛び出した。雄太郎は素早い動きで、キャロ星人が乗り捨てていった潜水艇に乗り込んだ。
「これならいけそうだ」

雄太郎は駆動スイッチを入れて一気にスピードを上げた。そのまま数艇の敵の後ろを猛スピードで素通りし、拓哉の浮かぶ場所へ急いだ。
「拓哉」
「雄太郎」
拓哉が泳いで近づいてくる。雄太郎は敵から潜水艇で拓哉を隠すようにして、拓哉のいる方向へゆっくり進んだ。
「拓哉、急いでつかまって」

手を延ばし拓哉を迎え入れる。拓哉が操縦席の後ろに乗りこむと、雄太郎は操縦席に残されていた銃でキャロ星人の乗っている潜水艇を数基破壊した。あと少しだ。

そう思った時だ、海面が大きく盛り上がると、海の中から巨大な建造物が頭を出した。津波のように盛り上がった波の勢いで、敵味方関係なく潜水艇が大きく揺れて押し流される。
海上にいたキャロ星人が、建造物の中腹あたりに開いた扉から中に逃げ込む。

建造物が海水を吹き飛ばし、海上にその全貌を現した。巨大な建造物は一旦空中に停止したが、爆音を上げると、上空に向けて勢いよく飛んで行った。
上空で小さくなった建造物は、一瞬キラッと光ると空に吸い込まれるように見えなくなった。

やった、追っ払ったぞ。雄太郎と拓哉は顔を見合わせて笑った。
「ありがとう」

拓哉が雄太郎に手をさし出し、2人は力強く握手を交わした。

「何やってるのよ、ボーッとしていないで早く仕事探しなさいよ」

正面に座っている妻の顔がパソコンのモニター越しに視界に入ってくる。雄太郎は目が合いそうになって思わず顔を伏せた。

世界親衛隊はキャロ星人を追い払うとすぐに解散した。

雄太郎は失業し、求人情報とにらめっこの毎日が始まった。
失業しているのは以前と変わらないし、妻からせかされているのも変わらないが、俺には強い味方がいる。
窓を開けて空を見上げると、太陽が自分に笑いかけている気がした。 
                              了

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