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PS.ありがとう 第18話
「わかった、今からしとくよ。その農場さキタサンブラックに縁がある農場らしいから、まいいか、そんなことは。あ、それと今日は今から懇親会あるからさ、ご飯はいいから」
「りょーかい、あんまり遅くならないでね」
「はーい」
電話が切れた。どいうつもりなんだろう。どうせ浮気してるんでしょ、頭の中で半分ずつ祐輔の味方と敵がいる。祐輔のことを信じたいという味方と、浮気してるんでしょと言う敵だが、キタサンブラックに縁のある農場と知り合いなら味方になるしかない、そう思った自分に、嘘だろ、と突っ込みを入れた。
急いで食事を作った。もちろん届いた野菜を中心に、子供が食べられる料理だ。食事は子供に合わせるのが基本だ。
「まま、おいしい」
「ありがと、そうやって言ってくれるのは美羽だけだよ」
「お姉ちゃんは?」
「私もおいしいよ、ママ、えこひいき」
最近は大人みたいなことを言うようになった晴香を二度見した。
「わかってるよ、晴香は美味しいと思ってると思ってるから、美羽に言ったの。ありがとう晴香」
満足そうに晴香が笑った。
瑤子の胸の中で幸せが広がった。子供が悩む姿は見たくないのは当然のことだ。そして笑顔を見て幸せな気持ちにならない親はいないだろう。
体中に充満した幸せを感じながら野菜のことを思い出した。
「まさか、だよね」
「なーに?まさかって」
美羽の耳に入ったみたいだった。
「まさかね、こんなにおいしいとは思わなかったからね」
瑤子が慌ててとぼけた。
「そうだよ、ママの料理おいしい」と美羽。
「私もママの料理はおいしいと思う」
晴香が答えた。一人仲間外れになるのが嫌なのだろう。
「ありがとう、晴香と美羽がそう言ってくれると明日からまたおいしい料理つくろうかなって、思うよ。だからどんどんほめてね」
「いいよー」
今自分はとても幸せな時間を過ごしているはずだ。子供達との会話が明日への活力になる。
寝室で子供たちが寝入ったのを確認すると瑤子はリビングに戻り、パソコンを立ち上げた。テレビも電源を入れた。ボリュームを聞こえる範囲の限界まで下げた。すべてを手際よく行った。
こんなことあっていいのか、冷静になる方が無理だろう。もしキツネにつままれることがあるとしたら今がそうだろう、と瑤子は青い画面を見ながら思った。
願いをかなえてくれるという便せんに感謝の意を込めて手紙をかけば、願いが叶う。これはいけるという気持ちと、ただの偶然だという気持ちが交錯していた。
ペンをとり便せんを広げた。なんでもいい、もう一度確認しよう。
“ディズニー 入場券”と検索し画像を画面に映し出した。
今日は美里ちゃんママへの手紙だ。
“以前もらった抽選券で電子レンジが当たりました。ちょうど欲しいと思っていたから、とてもうれしかった。美羽ともどもこれからも仲良くしてね。”
簡単な手紙を書くのには慣れてきた。読み直す必要もないくらい短いがもう一度目を通す。フーッと大きなため息が出た。パソコンのモニターの中で笑っているミッキーマウスを確認しながら追加した。
“PS.ありがとう”
ディズニーランドなんていつぶりだろう。遠い記憶をたどる。園内を走る晴香の姿が浮かんだ。晴香がまだ幼児だったから5、6年ぶりだろう。きっとディズニーの入場券も手に入るだろう、瑤子には不思議と確信があった。
折りたたんだ手紙を両手で持つと、お祈りをするように手紙に向かって頭を下げた。瑤子は手紙をテーブルに置くと、パソコンのキーボードを叩いた。
“しわ伸ばしクリーム”
以前テレビショッピングで宣伝していたクリームだ。60歳代の女性が30代に見えた代物だ。最近、ほうれい線が気になり始めた。色々試してきたが、あのクリームは効果があると踏んでいた。そして同じく手紙の効果も間違いないだろう。
“レイナちゃんママいつも気にかけてくえてありがとう。これを読んでることはきっと祐輔さんの不倫を確認できてるころね。私もおかげで東京に同行できそうやわ。うまくいったら美味しいもの食べに行こうな。”
レストランで祐輔が女性といるところが浮かんだ。密談をしているところをスマホで隠し撮りしている自分もそこにいる。まるで探偵にでもなった気分だ。
そこさえ押さえておけば東京行きは確実なものになるだろう。胸の中で期待が膨らむ。目じりが下がるのが自分でもわかった。
“PS.ありがとう”
おまじないの一言を付け加えて手紙を折りたたんだ。この日は朝方まで頭が冴えまくっていた。
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