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PS.ありがとう 第10話 (読了3分)

いい思いに浸っていると後ろから肩を叩かれた。

「美羽ちゃんママ」

振り返るとレイナちゃんママだった。

胸のあたりが重くなる。この前祐輔の浮気疑惑を教えてくれたばかりだ。

「ちょっとええ?」

せっかく抽選を楽しんでいるのにという気持ちがあったが、レイナちゃんママとは結託していたい、瞬間的にそう思った。話は正直言って聞きたい。子供は楽しんでいるから美智子さんに預けようと思った。

「美智子さん、ちょっとだけ子供みといてくれへん」

「ええよ、ええよ、ここにおるから話しておいで」

美智子さんに頭を下げて晴香の肩に手をかけた。

「晴香、すぐ帰ってくるから、優里ちゃんのお母さんといっしょにいてくれる。美羽の手を離したらだめだからね」

「わかってるよ、大丈夫」

晴香が大きく見えた。最近美羽のことをすすんで見てくれるようになったのはとても助かる。姉としての自覚ができてきたのだろう。

振り返りレイナちゃんママの後を追う。ずいぶんと人が集まったものだ。自分たちの前にいる人より、後ろの人の方が明らかに多かった。知らない人の肩にぶつかりながらも隙間をぬって、やっと集団から抜け出した。

広場の入口を出て近くのベンチに二人腰かけた。座るとエサをもらえると思ったのか、ハトが一斉に寄ってきた。もちろんエサなどない。

「あのな」

そう言ってレイナちゃんママが瑤子の目を確認する。

「これ、決して告げ口と思わんといてほしいんやけど」

やはり祐輔のことだ。あえてこの時間はそのことだけは考えまいとしていたが、レイナちゃんママは本気で警告してくれていると思っているから、瑤子は素直に聞くことにした。

「ええよ、何でも言ってって言ったやろ。この前の件もありがたいと思ってるんよ」

ここ数ヵ月祐輔の様子がおかしいと思っていた。思っていても聞けないことがある。別に知らなくてもいい。知ると傷ついた心は二度と立ち直れないきがしていたからだ。だが、レイナちゃんママから女性と会っていたと聞いた時、思ったほどのショックはなかった。自分でも驚いた。

祐輔が東京に転勤になる。一緒に行きたいと言ったら反対された。浮気していることをネタに一緒についていく理由ができたとまで思った。

「あのな、実は昨日な、祐輔さん見たんよ」

「また来たん?お店に」

やはり浮気は確定だ。

「いやちがうねん、西町商店街のな不動産屋に入って行ってたわ」

「不動産?なんで?」

「そんなんわかるわけないやろ。でも、その女の部屋か一緒に暮らす部屋を探してるって思うのが普通やない?色んなこと想像してしまってな」

レイナちゃんママの語気が強くなった気がした。

「はっきりさせた方がいいんちゃうかなって、思ってね。でも別れるっていう意味じゃないんよ。きちんと謝罪させて、二度とその女と会わんて約束させる。私、今、バツイチだし、母子家庭やんかあ、色々大変やし、でもな、一番かわいそうなのは子供なんよ。自分のことなら我慢できるけどな、子供の気持ち考えるとつらいんよ。この前も言ったけど美羽ママ、離婚は反対やからね」

レイナちゃんママの目が赤くにじんだ気がした。

「わかっとるよ、ありがとうね、そこまで心配してくれて」

会場の方から爆笑する声が聞こえた。お笑い芸人がドカンと受けた時の表現をするが、爆笑している声が聞こえた時に、本当にドカンと爆発した気がした。

「大丈夫、私は離婚する気はないから、何とか白状させてな東京に行こうって思ってるんよ」

「東京?」

レイナちゃんママのにじんでいた目が大きく開いた。

「祐輔さんがな東京に転勤になってん。私な、東京で暮らしがしたくて大学も就職も東京を選んだんよ。祐輔さんもそう、でも祐輔さんの就職した会社の本社が大阪やったし、異動になったのは栄転だったから一緒にこっちにきたけど。でもまた東京に戻れるって思うと、一緒に行きたくて」

日頃思っていても誰にも言えないことがすらすらと出てきた。ずっと人に聞いてもらいたかったのかもしれない。

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