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プロポーズされた日

心が動いたから、私は筆を走らせる。

飛鳥井千砂さんの「砂に泳ぐ彼女」の主人公の紗耶香は心が動いた時に写真を撮っていた。
感覚的に生きる彼女に自分を重ねて、もちろん私も思わず写真も撮ったけれど、文章でも残しておきたい。


彼に、プロポーズされた。
なんてことはない日常に仄かに色を染み込ませるように穏やかに「結婚しよ」と言われた。
彼を表すかのような優しくて穏やかな空気に包まれて、全く実感が湧かなかった。
夜景の見えるレストランで、振り向いたら跪いている彼がパカッと、みたいな絵に描いたようなドラマチックさはない。
人のいるような環境では絶対にないとは思っていたけれど。
突然のプロポーズは、涙を流す余裕もなかった。
心が動いて、理解するのに時間がかかり、私は彼を抱きしめるしかなかった。
「幸せにするからね」という言葉とともに。

あぁ、彼が私の「夫」になるんだと。
浅い眠りから覚めた朝、横でぐっすりと寝る彼の顔を見て、やっと少し実感が湧いてきた。

父の癌が分かり焦った私に放った「これをきっかけに結婚するのは違う気がする」と言われた6月。

結婚はもっと先だと思っていたのに。
聞いたら、年始くらいからぼちぼち考えていたらしい。
けれど誕生日にプロポーズするのも何か違うし、仕事も忙しいからそれどころじゃないし、と先延ばしにした結果、今だったらしい。

だからきっと7月に一緒に指輪を見に行ってくれたのかもしれない。

たった1ヶ月の間に何があったんだと思ってはいたけれど、なんだ、年始くらいから考えていたのかと分かったら合点がいく。
さては親に「勉強しなさい」と言われたら勉強する気もなくなる現象と同じだな。

そして一緒に指輪を見に行った後、わりとすぐに指輪を買いに行ったらしい。
それも「明日行きます」というほどの弾丸で。
私より遅く家を出て、私より早く帰ってくるのに、いつ買いに行けたの?
という疑問への答えははぐらかされた。

「俺は指輪を買った時に実感が湧いたからなぁ」と言っていた彼。
最近愛でられることが増えたと感じていたのはどうやら間違いではなかったらしい。
女の勘ってすごいなぁと、自分で自分に感心してしまう。
感覚的であるからこそなのかしら。
猫っぽいと言われるからなぁ、私。


幸せなのは良いことだ。
心が動くのも良いことだ。
なんてことはない週末がぽっと優しく光りだす。


結婚に不安がないといえば嘘になる。
苗字が変わることも、ささいなことかもしれないけれど小さな不安でしかない。
この先、この穏やかな寝顔を守れるだろうか。
結婚しよ、と言われたときに「幸せにするからね」と応えたのは、私の本心であるけれど、果たしてその約束は守れるのだろうか。
未来永劫守れると誓えるのだろうか。
小さな不安を抱えて彼と一緒にいることは彼を裏切っていることにならないだろうか。

悩みはつきないけれど、きっと彼なら「大丈夫だよ」と優しく抱きしめてくれると思うから。
だからきっと大丈夫なんだと思う。

これから先やらないといけないことはたくさんあるけれど

まずは、おめでとう、私。
そして、ありがとう、彼。



Love mitsuha__

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