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高岡クラフト巡礼。世にも美しいモノづくりのお話。~高岡漆器・前編~

新大阪から3時間。特急サンダーバードで金沢まで、北陸新幹線に乗り換えて一駅乗ると、新高岡駅に着きます。

2021年12月、ここからスタートして3件の工房見学に行ってきました。
案内をしてくださったのは、漆器にもと代表、國本耕太郎さん。高岡の伝統工芸をバスで巡る人気企画高岡クラフツーリズモの産みの親で、アウトドア×伝統工芸を世界に発信するブランドartisan933(アルチザン)のメンバーでもあります。
今回有難いご縁があって、artisan933の社員さんの工房見学に同行させていただくことができました。

私の故郷、富山県高岡市は加賀藩二代藩主・前田利長によって高岡城築城とともに開かれた400年以上続くものづくりの街で、銅像や金属仏具などの美術鋳物の全国シェア一位で・・・など細かいことはちょっと後にして。

忘れないうちに、私の大好きな、世にも美しいものづくりのお話を、現場からお伝えしたいと思います。

たぶん、世界一美しい、螺鈿SDG’Sバッジ

こちらのバッジ、伝統工芸高岡漆器の「青貝塗」という螺鈿の技法を用いてできています。SDG’Sの17色を再現しているシェルパールの光沢が美しい、ちゃんと国連にも申請済みの商品です。

あれ?貝ってこんなに色展開できるの?どうやって色を出してるの?その答えは、タイトル写真に・・・

1件目は、このバッジの螺鈿の工程を担当しておられる武蔵川工房さんへお邪魔しました。

生活品に施される加飾の技。濡れても平気。擦れてもはがれませんよ。

黒い漆のお盆や手鏡に、キラリと、まるで薄ーくシールのように動植物や縁起物がくっついています。これを普通に使って、濡れても、器でこすれてもはがれないのが、子供心にとても不思議でした。

工程を、見て、触れる!贅沢な見本。

のっけから、たいへんわかりやすいものがでてきました!下地~完成までの工程を12枚の板で表現した、美しい見本です。

高岡漆器は分業体制が特徴で、下地の作業、加飾の作業、塗り・研ぎの作業、とそれぞれ工房が分かれています。武蔵川工房さんは、このうち加飾の部分と製品のデザインを担っておられます。
最初はその前の下地づくりから、順番に教えていただきました。

左上茶色がスタートの木地に漆。右下黒い中塗りまでの8工程。ここまで20日ほどかかります。

黒い漆を塗る前に、布を張り、下地材を塗って、目の詰まった、フラットな表面をつくります。漆器が艶々とムラ無く光るのは、この下地にムラが無いから。少しでも凸凹があれば、光沢が歪んですぐにわかるのだそうです。見えないけど一番大事な工程なんですね。

真ん中の板、4色に分かれているのわかるでしょうか?これ、触るとちゃんと段差があります。紙一枚もないほどの段差です。手作業で、塗って、乾くのを待って磨く。また塗って、待って磨く、を約半月ほどかけて繰り返して、、下地は石のようにひんやり、しっとりしています。

ちなみに、ムラなく塗るのも、ムラなく研ぐのも、すべて手作業なのが信じられない!神下地(?)だ!と思いました。

昔、大学のプロダクトの立体モデル制作の課題で、スチレンフォームを削って、下地や塗料を塗ったり研いだりしたことがあるのですが、手って均一に力をかけられないんですよ・・・指ごとに筋力違うし、関節もぐにゃぐにゃ動きます。気になる凸を削ると、周りが必要以上に削れて凹むので、力を込めてもいけない、抜いても研げない。心の歪みがサーフェイスの歪みに現れる、精神修行のような感じでした。

ベンガラの赤い線を軽く置いて、貝のパーツを貼る。武蔵川工房さんの担う工程。

さて、やっと黒い平面となった地に、貝の絵柄をつけていきます。胡粉で少し高さをつけた面に、膠(にかわ)で型抜きしたアワビや白蝶貝などの貝を貼ります。さらに、貼り付けた貝の上に鉄筆などで細い溝を掘って、木の幹、花弁、鳥の羽などの線を表現していきます。 厚さ0.1㎜の「薄貝」と呼ばれる貝を使うことで、曲面などの切り抜きが容易になり、自由度が高い表現が可能になるということです。

奥から、元の貝、切り出した部位、殻の外側からどんどん削って薄く平らに。
こんなに薄く!一枚一枚が貴重なお品、お宝箱です!

この貝を切り出して削る工房も、今は関西に一軒しか無いそうです。廃業されたら、技術や道具はどうなってしまうのか・・・

左)裏面・着色 / 右)表面・非着色

透けるほど薄い(上から3枚目)ので、黒い漆に貼ると、一番下のように青く光って見えます。裏面をピンク(一番上)や、藍色(上から2枚目)に塗ると、それぞれの色が表に透けて見えます。

こうやって、裏から着色して17枚貼り付けてたのですね!

真っ白に見えますが、天然の貝なので色合いに個体差があるそうです。仕上がりの色を意図したものにするには、調色の技術が求められます。

左)針を使って切り抜く、右)金型を木槌でたたいて押し抜く

試しに切らせていただきました!が、貝の繊維があるので、ヂヂ・・・ヂヂッ・・・と、針の先が引っかかって思うような線に切れません。金型抜きも、強く叩くと割れそうで、手加減したら端がくっついて残ってボロボロに、、、

たくさんの金型が保管されている棚
富山湾に浮かぶ立山連峰の図。よくみると山も小さなパーツに分かれています。

元の貝の一枚づつが小さく、また、手で切るにはやっかいな素材なので、うまく金型をつかってパーツを組み合わせながら、複雑な図案を作っているのですね。

<作品:コゲラにノウゼンカズラ 姫鏡> 武蔵川工房HPより画像をお借りしました。

複雑な意匠は、金型で抜いたあとに裏から彩色して、表から細い線を毛彫りして、こうなるのだそうです。貝の光沢の方向を上手く合わせてあるのでしょうか、すごく薄い貝なのに、羽や花びらがふっくらして見えます。

こうして張り付けた貝を、先ほどの工程の下段、漆で固めていくのですが・・・長くなったので、次回に続きます。

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