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高岡クラフト巡礼。世にも美しいモノづくりのお話。~高岡漆器・後編~

漆器くにもと 4 代目國本耕太郎さんが企画された、高岡クラフト見学ツアーに参加して、伝統工芸高岡漆器の「青貝塗」の加飾工程を担当しておられる武蔵川工房さんにお伺いして、その製作工程について教えていただきました。


青貝塗は厚さ 0.1 ㎜の「薄貝」と呼ばれる貝を使う技法で、螺鈿の技法の中でも絵柄の色や形の加工が高度にできるのが特徴です。(下地から加飾までの詳しいお話はこちら→前編

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(写真:工房の棚に並ぶ綺麗な箱たち。和三盆糖を入れてデスクに置きたい。)


武蔵川工房さんで加飾(薄貝の絵柄を貼り、線を彫る作業工程)をしたあと、漆を塗る工房へ作業が引継がれます。

下の写真がその工程の見本です、なんと、模様は漆で隠れて真っ黒に!貝をよけて漆を塗るのでなく、貝の上から漆を塗ってしまうのですね。

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(写真:左上から順に、漆を塗って、隠れた貝の部分を剥がす。を繰り返す)

全体にムラなく漆を塗る

貝の上の漆だけを小刀で剥がす(貝むき)

これを繰り返して、絵柄の周囲に漆の層ができ、しっかりと貝がくっつきます。またこのときに貝の上から鉄筆で彫った「毛彫り」の溝に漆が入り、梅の花芯や木の幹に黒い線が現れます。そして、漆をすり込み、磨く、を繰り返すことで、漆の光沢面の層が重なり、光の反射に深みが増していきます。

漆が乾くまでの時間が約3日、この間に、固まりきる前の少し柔らかい膜状の漆を、貼り付けた貝の上から取り除かなければならないそうです。

漆を全体に塗って、貝の上だけ剥がす作業。これを何度もするのに、途中で失敗したらリカバリーできるのか・・・気になってお聞きしました。


Q.「漆を剥がすときに、貝に傷がついたらどうなりますか?」
A.「傷の部分に漆が入ると黒くなってしまうし、貝はくっついてしまって貼りなおせないので、傷つけないよう気をつけるしかないですね。」

Q.「貝の周りの漆に小刀があたって傷がついたりしませんか?」
A.「そういうこともありますね。傷だけを埋める事はできないので(そこだけ光沢ムラができるそうです)、浅い傷なら全体に研いで塗りなおすこともあります。でも、その場合も木地が見えるまで磨いてしまうと、もう直せないので・・・やっぱり気をつけるしかないですね。」

Q.「貝むきで、漆を剥がし忘れた部分があったらどうなるんですか?」
A.「一度硬化した漆は取れないので、残念ですがその一個は商品にならないです。」

やっぱり、そうそうやり直しはきかないのか・・・漆って、一度固まると相当頑丈なものなんですね。これで貝の周りをしっかり固定するから、お盆やお箸の上に貼った模様が剝がれない。洗っても擦れても大丈夫なのも納得です。

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(写真左→右:塗り・研ぎ・貝むきを繰り返すことで、貝が固着し、漆の光沢が深まります)

「貝むき」は塗り職人さんではなく、主婦の方など内職さんに委託されるそうですが、以前は問屋さんの仕事だったとか。國本さんも「僕も昔は、たくさんやりました。時間に追われるし、神経も使う細かい仕事で大変ですけど、絵柄が見えてくるとワクワクして楽しいですよ。」と仰っていました。

高岡漆器の制作は分業化されているため、この「貝むき」の工程だけを見ても、製作受注から完成納品までの全工程を管理する、漆器問屋さんの役割がとても重要だということがわかります。問屋さん=販売業というイメージがありましたが、高岡漆器の問屋さんは職人さんと一緒になって商品を完成させていく、製作側のお仕事なんだなぁと感じました。

國本さん曰く「欧米の方に漆器の製作工程を説明すると、クレイジーだ!と言われます(笑)」だそうです。美しいものを作る方たちへの最大の賛辞と受け取りました(笑)。


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(写真:江戸時代末期から伝わる「勇介塗」は、エキゾチックな意匠!)

見学の終わりに、アンティークの漆器棚を見せていただきました。

落ち着いた風合いの朱塗りの棚に、唐風の加飾がさまざまな技法でされています。こちらは「勇助塗」という高岡漆器で、青貝のほかにも、玉石が貼られたり、蒔絵が施されたりと、たいへん手の込んだもの。今では製作できる職人さんがお一人しかいないそうです。

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よく見ると、朱塗りの部分に細い格子と星の模様が彫ってあります。ということは、彫れるほど厚く漆を塗り重ねて、さらにその上に加飾をしてあるということ。いったいどれぐらい時間をかけて完成するのか・・・気の遠くなるような作業で想像ができません。


漆は塗り重ねるほどに丈夫になるそうです。もとはウルシの木から採取される樹液なのですが、実は驚くほど耐久性にすぐれており、世界最古のものでは北海道の縄文時代の遺跡から9000年前の漆が発見されています。

日常生活ではプラスチック製品に圧されて、徐々に使う人が減っている漆器ですが、修理しながら長く使えて、役目を終えれば簡単に土に還すことができる、とてもサスティナブルなもの。

それをさらに、美しく、使う喜びのあるものにする、伝統工芸の技。漆器には今の時代に大切なことがいっぱい詰まっているんだな、と思いました。

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せっかくなので何か普段使うものを一つ求めたい!と棚を拝見しようとすると。

「じゃあ次、行きますよー」と國本さん

「はいどうも、またねー」と武蔵川さん。

えー待って!この見学ツアー、お買い物は無しですか!?

あわてて車に乗って、後ろ髪を引かれつつ、次なる工房へ向かいました・・・シロクマ模様のお箸とか、かわいいのがチラっと見えたなぁ・・・

(次回、高岡銅器編へ続きます

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(後日、武蔵川公房さんのショップサイトにて発見!シロクマ)


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