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ぼくの「恋人ちゃん」|ショートショート

いま思えば、早すぎたのかもしれない。

最初にそう呼んだのは、たまたまで、響きがよかったからだった。

会うたびに呼びかけると、すこし微笑んで見えたから。
だから呼び続けた。

それはその場だけの特別な空気の中だけで、ゆるされたことだった。
しかしそれがあたりまえになってしまうと、だんだんと真実味をおびてゆく。

ぼくが行くときには、必ず君がいる。
その重く鋭い言葉の本当の意図を知っているのは僕だけだ。

最初に名付けたのは僕だから。

「恋人ちゃん」は今日も薄い笑顔で僕の前から動かない。
ぼくがここで名付けたから。

……

私は「恋人ちゃん」

初めてあった時からそうだった。
大人の夢と幻想がつまったこの場所へ、現実を乗り越えるためにやってくるひとたち。

私は演者のひとりで、笑顔は制服のようにずっとはりつけるのがルール。
最初は戯れだったけれど、あたりまえになってしまうと、だんだんと真実味をおびてゆく。

一方的に巻きつけられるロープを切るように、言葉をかえす。
鋭い言葉も彼には届かない。

名付けたのは彼だから。

演者は制服を着たままここから動けない。
ここで名付けられたから。


【あとがき】

陰陽師のアニメみていたら「一番短い呪いは名前。名前をつけた時から縛られる」という言葉を聞いて書いたおはなし。

お仕事をしている時に新しい作業ができてきて、なんとなく流れでやっていると忘れてしまったり抜けてしまったりするけど、その作業に名前をつけると、突然存在感が増して、みんなが気にかけるようになる。
ということがこないだあって、名前をつけることでこの世に縛られ、存在を許されるのだ!と納得したところです。

それでこのお話は、呼び名を「恋人」にしたらその名前に呪われた二人ってかんじの話にしたかったけど、つたわるのだろうかとおもうから、あとがきで説明しよう。そうしよう。

ガールズバーとかキャバクラみたいなところに行った男の子が気に入った女の子を「恋人ちゃん」ってあだ名をつけてよんでいるうちに本気で恋人になったきもちになっちゃってて、女の子の方は、仕事だから笑ってるのに、男の子が本気になりすぎてて、うざとか、きもとか言ってるのにぜんぜん響かないからこいつやば。でも稼がなきゃな。みたいなお話です。


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