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大人になった瞬間を覚えている。|ショートショート


それは25歳、地下鉄の中だった。
吊り革につかまりながら、ふと知った。

「あ、私オトナになったな。」

それまで、大人になることをずっと拒んでいた。社会のルールに縛られるのも、当たり前のことをキチンとするのも上手く出来ない私は、25歳で、フリーターで、でもやりたいことなんかなくて、生きるために生きていた。

あの日は、バイトの時間に間に合うよう移動中だったのだ。

長く手を上げていたから腕が痛い。
約束の時間にまにあうよう、少し早めに家を出た。

そんな当たり前のことを、特に頑張るでもなく出来ていた自分に感心したのだ。

そしてその日から私は大人であることを認めるようになった。

あの日に似た曇り空の今日は、少しの諦めと満足を抱えた「オトナになった日」を思い出していた。

子どもは、子どもでいたいなんて言わない。

子どもでいたいと抗っていた時はもう、大人だったのだろう。

大人は、大人になりたいなんて言わないのだから。



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