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奥野ビル306号室で写真公募展を開催 !

 2020年12月、オンラインで開催された初めての「写真#306レヴュー」には10名の皆さんにご 参加いただき、2日間かけて作品を拝見しました。なぜ、この奥野ビル306号室で展示を希望され ているかということが大きな参加条件でした。もともとこの306号室はギャラリーではなく、ここで戦前、戦中、戦後と美容室を営んでいた須田さんの生きてこられた時間軸を見つめ、奥野ビル90年の歴史とともに、そのまま「温存」するという目的のもと、プロジェクトメンバーが集ま りささやかな活動を継続している空間ですので、展示のための壁面も照明もないままの場所です。 そうしたことをご理解いただき、作品あるいは活動に照らし、制約もあるこの空間で展示を考え ている方をお選びしたいと思いました。

今回はお二人をお選びさせていただきました。お二人とも「家族」の過去と現在を往復し、私 たちの来し方、行く末を写真表現として展開しています。最初に展示をお願いしたのが大原明海さ んで、後述のような作品内容です。

2021年のコロナ禍にぶつかり、なかなか思うように展示日程が取れず、306号室の活動も以前 に比べ大幅に停滞することになってしまい、そのまま2022年に突入してしまいましたが、このたび、意を決し、作者の大原さんのご了解をいただき写真展を開催させていただくことになりまし た。まだ落ち着かないご時世ではありますが、306号室にお立ち寄りいただければ幸いです。

銀座奥野ビル

「写真#306レヴュー・ SELECTION 展 1」
大原明海 「アラバスターの部屋 Safe in their alabaster chambers 」 2022年4月11日(月)~17日(日) 12:00~19:00 (最終日18:00)

銀座奥野ビル306号室 中央区銀座1-9-8 奥野ビル306号室

協力 銀座奥野ビル306号室プロジェクト

大原明海作品より

アラバスターの部屋“ Safe in their alabaster chambers “

アラバスターの部屋でやすらかに 朝にも邪魔されず 昼にも邪魔されず
復活を待つ柔和な人々が眠っている サテンの垂木 石の屋根の下で
そよ風が光の城の中で軽やかに笑う 蜂が聞えない耳に語りかける
小鳥たちが無邪気な歌を歌っている 何という知恵がここで消えたことだろう
上のほうでは歳月が厳かに過ぎゆく 世界は弧を穿ち 蒼穹は回転し
王冠は落ち 総督たちは降伏する 雪原のしみのように音もなく

~ Emily Dickinson “ Safe in their alabaster chambers “ ~ (壺齋散人訳)

生涯のほとんどをアメリカ・マサチューセッツ州アマーストの自宅で過ごした 19 世紀の 詩人は、アラバスター(雪花石膏)でつくられた部屋を棺墓に例え、復活を信じるプロテス タント信仰を題材に制作したと考えられています。私はその詩を読んだとき、大きな水晶の 洞窟の中に自分がいるような気がしました。 子供の頃から鉱物のごつごつした石の外側とは裏腹に内側のきらきらと光る結晶を見るの が好きでした。割ってみなければその美しさに気づかないように、ひとの内面にも一体どれ だけの鉱脈が隠されているのでしょうか。

この作品は父が OLYMPUS PEN-FT で撮影し残した子供の頃の私を、大人になった私が OLYMPUS OM-D E-M1 で複写しました。生前父とはほぼ分かり合えることもなくあま り愛情を受けて育ったとも実感していなかったのですが、私自身が写真を撮るようになり ひとを撮る難しさをようやく感じた頃、あらためて父の写真を見返しその中に向けられた あたたかいまなざしに気付きました。そのアラバスターの部屋の中で私自身の過去の記憶 を葬り去るとともに時にはそっと取り出して眺めていたいと思い制作したものです。

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大原 明海 (おおはら あけみ) Akemi Ohara 福島県生まれ 在住

■ Solo Exhibition(個展)
2016 TAMAZUSA / Sony Imaging Gallery Ginza / 東京
2014 Out of blue comes green / Gallery916 small / 東京
2013 Out of blue comes green / Epson Imaging Gallery epSITE / 東京 2007 Lower Heaven,Higher Hell / Gallery Morning Terrace / 郡山


古くから様々な読者に支持されてきた「アサヒカメラ」も2020年休刊となり、カメラ(機材)はともかくとして、写真にまつわる話を書ける媒体が少なくなっています。写真は面白いですし、いいものです。撮る側として、あるいは見る側にもまわり、写真を考えていきたいと思っています。