小さな声を、聴きたい。小さな声を、応援したい。
若手俳優や芸能人、有名人などが「選挙にいこう」と呼びかけている動画の存在を知ったとき、こういう動画が若者の関心を高めることにはつながるよな、話題性もあるし、いいことだ、と思いました。でも、なぜか私は、その動画を見ようとする気にはなれませんでした。
朝日新聞、2022年7月12日付の文化欄。エッセイストの酒井順子さんの寄稿文を読んで、あのときのなんとなく消化不良のような気持ちが、少しだけすっきりした気がしました。
大きな声を出せる人は、立派だと思います。パワフルで、リーダーシップがあって、賢くて、人望もある。そういう人が何かを言うと、それが本当のように聞こえる。説得力。自信満々で話している人を見ると、ああそういうものなのかな、と思えてくる。
でも、そういう立派な人を見ると、すごいな、という感情と同時に、何か得体のしれない、ドロドロとしたものが湧き上がってくるような気がします。
それは、もしかしたら一種の嫉妬なのかもしれないし、行動力のない自分自身に対する情けなさなのかもしれない、才能や環境に恵まれなかったことへの不平等さにがっかりしているのかもしれないし、ただなんとなくの嫌悪感なのかもしれない。
それは甘えだよ。そういう人に限って、人のせいにばっかりするよね。
確かにそうかもしれない。でも、そう言ってしまったら。言い切って、「自己責任」で片づけてしまったら。その結果が、今の社会であって、その社会は、いつかどこかで自分や周りの大切な人を傷つけてしまうかもしれない。他人事じゃない。私には、そう思えてならないのです。
7月から、夏クールのテレビドラマが始まりました。TBS系金曜ドラマ『石子と羽男~そんなコトで訴えます?~』第1話のラスト、社内でのパワハラの証拠を手にしながらも、その証拠を提出することをためらっている社員に向かって石子役の有村架純さんが言うセリフ。
日テレ系土曜ドラマ『初恋の悪魔』。
警察署・総務課、会計課、生活安全課に勤める3人と、銭湯にメガネと拳銃を置き忘れたことで停職処分をくらっている刑事が、捜査権はなく解決したところで出世できるわけでもなんでもないが、ただ真実を知りたいがために自分たちだけで事件を捜査していくお話。
第1話、林遣都さん演じる停職中の刑事・鹿浜の家に集まり捜査会議を始めようというシーン。前日に嫌味なことを言われ不貞腐れている鹿浜が、柄本佑さん演じる会計課の小鳥につっかかる。
自分の話を聞いてくれた、刑事課の刑事・服部渚(演:佐久間由衣)に、何かお返しをしたいと思う小鳥。彼女の力になるには、事件の真相を解明して、彼女に手柄を立てさせることしかない!
その潔さ。自己満足で声を上げる、それでいいじゃないか。社会を変えたいとかよくしたいとかそんな仰々しいことなんて何もなくても、行動すればいいじゃないか。やってみれば、いいじゃないか。自己満足バンザイ。
こんな風に、ポンっと背中を押せるような人でありたい。大きな声で、正しいことを叫ぶのではなく、隣に座って、小さな声で、応援したい。隣に座る人の小さな声に耳を傾けたい。そうやって、生きていきたい。
その手段が、私にとっては言葉であり、聴くことや書くことであり、本やテレビドラマや音楽であり、想像力であり、ユーモアであり…。
《引用》
朝日新聞:(寄稿)「聞く力」と共に「掘る力」も 絶望や諦念、声を失った人もいるのだから 酒井順子
https://www.asahi.com/articles/DA3S15352943.html
TBS金曜ドラマ『石子と羽男~そんなコトで訴えます?~』
https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
日テレ土曜ドラマ『初恋の悪魔』
https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
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