見出し画像

小さな声を、聴きたい。小さな声を、応援したい。

「私は投票します」というスターの声を耳にして、「彼らのまっすぐな意見に、居心地の悪さを感じる若者もまた、いるのではないか」と思ったのでした。

(寄稿)「聞く力」と共に「掘る力」も 絶望や諦念、声を失った人もいるのだから 酒井順子/朝日新聞2022年7月12日記事

若手俳優や芸能人、有名人などが「選挙にいこう」と呼びかけている動画の存在を知ったとき、こういう動画が若者の関心を高めることにはつながるよな、話題性もあるし、いいことだ、と思いました。でも、なぜか私は、その動画を見ようとする気にはなれませんでした。

朝日新聞、2022年7月12日付の文化欄。エッセイストの酒井順子さんの寄稿文を読んで、あのときのなんとなく消化不良のような気持ちが、少しだけすっきりした気がしました。

「率」を上げようとする人々は、色々な事情を持つ人への配慮も十分にした上で、未来のために声をあげています。しかしその声が真摯であればあるほど、一歩あとずさる人もまた、いるのです。呼びかける声が至ってまっとうだからこそ、後ろ暗さや心の痛みを感じる人々が。

(同上)

スターたちから語りかけられても投票に行かない人々の中には、未来を描けぬ絶望や諦念感、まだ大人が解明していない様々な気持ちが渦巻いているのではないか。

(中略)

人の話を「聞く力」も、政治家にとっては大切です。しかし今、大きな声を出せる人がいる一方で、声を出す気にすらなれない人が、増えている気がしてなりません。なぜその人々は、声を失ったのか。その絶望と諦念の根元を「掘る力」も必要なのだろうと、私は思います。

(同上)

大きな声を出せる人は、立派だと思います。パワフルで、リーダーシップがあって、賢くて、人望もある。そういう人が何かを言うと、それが本当のように聞こえる。説得力。自信満々で話している人を見ると、ああそういうものなのかな、と思えてくる。

でも、そういう立派な人を見ると、すごいな、という感情と同時に、何か得体のしれない、ドロドロとしたものが湧き上がってくるような気がします。

それは、もしかしたら一種の嫉妬なのかもしれないし、行動力のない自分自身に対する情けなさなのかもしれない、才能や環境に恵まれなかったことへの不平等さにがっかりしているのかもしれないし、ただなんとなくの嫌悪感なのかもしれない。

それは甘えだよ。そういう人に限って、人のせいにばっかりするよね。

確かにそうかもしれない。でも、そう言ってしまったら。言い切って、「自己責任」で片づけてしまったら。その結果が、今の社会であって、その社会は、いつかどこかで自分や周りの大切な人を傷つけてしまうかもしれない。他人事じゃない。私には、そう思えてならないのです。



7月から、夏クールのテレビドラマが始まりました。TBS系金曜ドラマ『石子と羽男~そんなコトで訴えます?~』第1話のラスト、社内でのパワハラの証拠を手にしながらも、その証拠を提出することをためらっている社員に向かって石子役の有村架純さんが言うセリフ。

「なぜ、声を上げないんですか?
大庭さんはいじめを告発したのにもみ消されたあの時、なぜすぐ弁護士に相談しなかったんです?カフェからカメラを向け始める前に」

「それは、内々のことだから誰かに頼るのは間違っている気がしたし、それに…」

「情けない、って思った。
それは違いますよ。人間関係を円滑にするためのルール、それが法律なんです。そのルールにのっとり声をあげる行為は、情けなくもないし、少しも間違っていません。

憲法第14条で、全ての国民は法の下に平等であるということが規定されています。法律を知っていれば、守れること、避けられることもある。傷を最小限にとどめることもできる。そのお手伝いをするのが我々です。

ただ、声を上げていただかなければお手伝いできません。ぜひ法律を上手に活用し幸せに暮らしていただければと存じます」

『石子と羽男~そんなコトで訴えます?~』第1話より

日テレ系土曜ドラマ『初恋の悪魔』
警察署・総務課、会計課、生活安全課に勤める3人と、銭湯にメガネと拳銃を置き忘れたことで停職処分をくらっている刑事が、捜査権はなく解決したところで出世できるわけでもなんでもないが、ただ真実を知りたいがために自分たちだけで事件を捜査していくお話。

第1話、林遣都さん演じる停職中の刑事・鹿浜の家に集まり捜査会議を始めようというシーン。前日に嫌味なことを言われ不貞腐れている鹿浜が、柄本佑さん演じる会計課の小鳥につっかかる。

鹿「知ってどうする?」
鳥「守りたい人がいる」
鹿「社会をよくしたい(嘲笑)」
鳥「ちがう!!俺の自己満足だ」

『初恋の悪魔』第1話より

自分の話を聞いてくれた、刑事課の刑事・服部渚(演:佐久間由衣)に、何かお返しをしたいと思う小鳥。彼女の力になるには、事件の真相を解明して、彼女に手柄を立てさせることしかない!

その潔さ。自己満足で声を上げる、それでいいじゃないか。社会を変えたいとかよくしたいとかそんな仰々しいことなんて何もなくても、行動すればいいじゃないか。やってみれば、いいじゃないか。自己満足バンザイ。



こんな風に、ポンっと背中を押せるような人でありたい。大きな声で、正しいことを叫ぶのではなく、隣に座って、小さな声で、応援したい。隣に座る人の小さな声に耳を傾けたい。そうやって、生きていきたい。

その手段が、私にとっては言葉であり、聴くことや書くことであり、本やテレビドラマや音楽であり、想像力であり、ユーモアであり…。


《引用》
朝日新聞:(寄稿)「聞く力」と共に「掘る力」も 絶望や諦念、声を失った人もいるのだから 酒井順子
https://www.asahi.com/articles/DA3S15352943.html

TBS金曜ドラマ『石子と羽男~そんなコトで訴えます?~』
https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/

日テレ土曜ドラマ『初恋の悪魔』
https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?