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断頭台の先はきっととても綺麗で

随分長い間いた牢を出て断頭台へと向かう。住めば都とはよく言ったもので、最初はとんでもない独房だと思った場所も今は愛着を感じていた。少し寂しい気持ちは残るが、これからの未来へ目を向ける。
死刑の執行というのは当日の朝知らされるものらしい。私は恵まれている。前日に知ることが出来た。
断頭台へと歩くさなか看守の足を踏む。
「ごめんなさいね。わざとじゃないのよ」
一晩かけて何を話そうか考えた結果出てきたのがこれだった。
私は恵まれている。
断頭台で殺されるということは一種のショーである。
多くの人間が私が死ぬことを望み、楽しみにしている。それは一種のショーと言っても過言ではない。そう考えると断頭台は一つのステージに思えた。そして多くの人に見守られながら多くの人の心に残って死ぬことが出来る。
私は恵まれている。
俗世を捨てより高次の世界へ登ることが出来る。
天界があるとするならばきっとこの世よりは良いところであろう。ないにしても私という存在はそこで終わる。その先に苦楽はない。
そう思うと何だか心が弾んでくる。
楽しい気持ちになってくる。
「あぁ、きっとステージから見る景色はとても綺麗なのでしょう」
そんな期待に胸を膨らませながら断頭台へと辿り着く。
案の定多くの人が私を見ていた。
「これより刑の執行を執り行う」
あぁ、やっとこれで私は完成するのね
はやく!はやく!!そう心は急く。
ズバッ と刃が落ちる音共に視界は暗転した。

ふと意識を取り戻すと先ほど見えた人の海の中にいた。
違う点はひとつだけ。
誰も私のことなんて見てはいなかった。
そこにはただの女と人々の日常があった。
私は理解する。

あぁ、これが本当の死刑ですのね。

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