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第51回 カウンセラーのTシャツと言葉のサラダ 呪術廻戦のオマージュとオリジナリティ。

カウンセラーとスタッフの日常会話の記録です。
  
Mi代表:深層心理学が専門のカウンセラー。Mitoce代表。
すたっふ:カウンセラー見習いのスタッフ。少々オタクらしい。 


 Mi代:人気のある呪術廻戦のアニメを最近見たのですが…。

すた:私は見たことはないのですが、いかがでした?

Mi代:うーん、とても言い難いのですが、悩んでしまいました。

すた:どういうことですか?

Mi代:五条先生は魅力的だし、キャラクターそれぞれ味があるのですが、あまりにも他作品のオマージュが多すぎて…。

すた:オマージュ?
 

Mi代:作者も公言しているのですが、冨樫義博先生の幽遊白書とハンターハンターのオマージュが多すぎるように私は思ってしまって。しかも重要なシーンなどで使われる技や仕掛けや動作など、かなり多く冨樫先生の設定をそのまま使っていて悩んでしまいます。 

すた:編集は知っていてOKを出しているんですよね。

Mi代:同じ少年ジャンプの作品なので当然そうしていると思います。私は冨樫先生の作品で育った世代ですので、あまりに出すぎると、これでいいのかと悩んでしまいます。もちろん、作品としては良くできている作品なので、人気が出るのも良く分かります。でも…。

すた:Mi代表としてはすっきりしない。

Mi代:そうですね。 

すた:でも、そういった過去の作品のオマージュにあふれているということを今、観始めた人たちは知らないと思います。だって、何年前の作品ですか? 

Mi代:そう考えるともう20年以上前ですからね。 

すた:それは今の人は知らないと思いますよ。今初めて呪術廻戦を見た若い人たちは、知ることはないと思うので。たしかに、私も日本のドラマをあまり観ないのは、似たような事情があるかもしれません。どのドラマをみても、設定や物語の展開が「これはどこかでみたことあるやつだな」という展開が多くて。それで話を追っていても「ああ、今回はこっちのを使ったんだな」と思ってしまいます。
でも最近、面白い話を聞いて。今の世代の人が、スターウォーズのエピソード4を観た後「どれも観たことがある展開」だと思ったとらしいですね。でもオリジナルはスターウォーズで、そのオマージュがあとで大量生産されただけなんですが。それを知らないと逆になるようで。

Mi代:たしかに。今の世代だけを見ていると、そう思うかもしれないですね。創作活動におけるオリジナリティとは何かというのは、私はずっと考えてきたテーマです。冨樫先生は以前に、だれも知らないようなものから影響を受けて作品を作ると、それはオリジナリティがあると思われる、と冷静におっしゃっていました。多くの人が知っている作品だと「オマージュだな」といわれるけれども、ほとんど人が知らない、マイナーな作品の影響を受けて表現すると、オリジナルだといわれる。冨樫先生らしい思い付きです。
私は以前に『バクマン。』(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)を読んでいて悩んだことがあります。マンガを学ぶためには、過去のマンガを読むことが大切だと。それはそれで大切だと思うのですが。でも日本で大ヒットマンガを作った黎明期の巨匠たちの前には、マンガは今ほど作品数がなかったんですね。たとえば手塚治虫先生は何から学んだかというと、映画のコマ割り、カットなどから学んで、マンガに落とし込んでいます。ドラえもんを描いた藤子・F・不二雄先生は、著書の『藤子・F・不二雄のまんが技法』で、 とにかくいろんなことに興味を持って調べることが大切だと言っています。マンガだけではなくて、さまざまな事柄に触れると創作の幅が広がる。だからこそドラえもんの秘密道具が思いつくし、巨編映画も描ける。
クリエーターで言うと、ゲームデザイナーの小島秀夫さんは「僕の体の70%は映画でできている」とおっしゃっています。小島秀夫さんが日本のおすすめ映画を紹介している記事を読んだのですが、当たり前かもしれませんが、小津安二郎や黒沢明を紹介しているんですね。SF映画やモンスターが出てくるような映画を勧めるのかなと思ったのですが、そういった基本的な作品を当然ながら抑えている。 

すた:小津安二郎はクリエーターを育てる授業では必ず出てきます。

Mi代:そうなんです。そのあたりが、すごく重要な点で。知識として小津安二郎や黒澤明を知っているのと、実際にいろいろ映画を見た中から小津や黒沢を推すというのは全く違うんですね。どうしても知識として知っていると、それで満足してしまうのがほとんどです。でも一流のクリエーターという人たちは、そういう作品を実際に観ている。 2020年に発売されたゲームのGhost of Tsushimaは、クリエーターが黒沢明に影響を受けて作った、日本の侍を主人公にした作品です。必殺技を使うときに、白黒の場面になったりして。まさに黒沢映画!という感じの映像です。こういったゲームをなぜ日本で作れなかったのかと悲しく思ったのですが。でも日本でも、原泰久先生の『キングダム』は春秋戦国時代を舞台にしています。ほんの数行しか書かれていない歴史の記述から、物語りを作り上げるという大変な労力です。もちろん、時代考証から見ると、リアルとノンフィクションが入り混じっているそうですが。時代考証をしっかりしている漫画家の例としては、江戸時代の文化や風俗を作品にした漫画家の杉浦日向子さんは、かなり正確な描写だとされます。葛飾北斎を主人公とした『百日紅』が代表的な作品ですね。勉強量が違うなと思います。

すた:たしかに大物のクリエーターは読書量がすごかったりして。「なんでそんなの知っているの?」というようなことが出てきたりします。ずっと本を読んでいるイメージです。映画監督で読書家という話はよく聞きます。

Mi代:でもこういう話をしていて思うのは、もし私が、すでに亡くなった臨床心理学の大御所が仰ったことを、自分のように話しても、今の世代の方は気付かないかもしれないということです。たとえば、書評で取り上げた土居健郎先生が仰ったことを、自分が発言したかのように言っても気付かないかもしれない。 

すた:はい、若い人には分からないと思います。

Mi代:それは怖いことだなと思います。私たちの業界で有難いのは、まだそういった黎明期の先駆者の話を憶えている人たちがいることです。しかしながら今後、世代交代をしてなかで、過去の人物は次々と忘れ去られていく。でもオリジナリティを出したり、深い考察をしようとしたら、大御所といわれる人たちの著作などに触れておくことが大切です。自力でしようとすると、どうしても周りに道にもなるので。
クリエーターでも、過去にすごく売れた作品や社会に影響を与えた作品を知っておくのは大切です。それと、あとは古典や巨匠と言われる作品に触れておくのも。たとえば文豪とかも良いですね。 

すた:そういうのが大切なのはわかるのですが、でも手に入れようと思っても、高いんです。本なんか、過去の本だと1冊5000円で売っていたりしますから。もっと安い版が出たらいいのに。

Mi代:だれもが知っている作品だったら、廉価版が出たりしますが。その値段で回収できないような作品だと、なかなか購入できない。図書館に行って本を借りるという方法はありますが、やはり手元にそういう作品はおいておきたい。
私はお金持ちになって贅沢をしたいとか、そういう欲求はほとんどないのですが、読みたい本を気にせずに買えるようになりたいというのはありますね。どうしても発行部数の少ない本や専門書は値段が高くなるので。 

すた:私もそれはあります。気にせずに本を買える。それはいいですね。

Mi代:たくさん本を読むというのは、自己満足というだけではないんです。私はカウンセリングという仕事をしているので、知識の引き出しをたくさん持っている方が役立ちます。相談に来たクライエントが、どんな内容の話をするのかは事前には全くわかりません。そういった状況であっても、カウンセラーとしては詳しい内容までわからなくても、大まかには何の話をしているのか分かる必要がある。そうでないと、相手の世界観についていけないので。もちろん、全く知らないときにはクライエントに教えてもらうという方法はあるのですが。クライエントには全く知識のない人に話すよりも、少しは知識がある人に話すほうが労力はかかりません。そういった意味もあって、たくさんの情報に触れておくというのが大切だと思っています。いい作品や本からは、知識だけでなく学ぶことも多いという側面もありますしね。もちろん、自分が興味を持てる内容だから、そういう作品を選ぶというのが大前提としてありますが。

すた:そうすると、さきほどMi代表は呪術廻戦について、悩みながら観ているという話をしていましたが、アニメはどのあたりまで観たのですか?

Mi代:全部見ましたよ。特別編も含めて。まだ連載中なので、現在公開されている話までですが。

すた:あんなに悩んでいると言ったのに、全部見ているんですか?

Mi代:ひとつの作品を見始めたら、最後まで全部見る。それがマナーじゃないですか?

すた:いえ、そんなマナーは存在しません。途中でやめる人もいます。

Mi代:それは私には信じられない行動です。呪術廻戦は気になる部分はありますが、絵はきれいです。キャラクターも魅力的。というのも、どんな作品であってもかならず優れている点はあるので。とくに呪術廻戦は人気のある作品なので、面白い部分はたくさんありますよ。領域展開!
 

すた:悩んでいると思って気にしたのですが。なんか、Mi代表の術中にハメられている感じがします…。

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