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第48回 カウンセラーのTシャツと言葉のサラダ メンバー脱退と芸能人のメンタルケア

カウンセラーとスタッフの日常会話の記録です。

Mi代表:深層心理学が専門のカウンセラー。Mitoce代表。
すたっふ:カウンセラー見習いのスタッフ。少々オタクらしい。



Mi代:大変ショックなことが起こりました。

すた:どうされました?

Mi代:ここで何度か取り上げた、大阪発のアイドルグループ、にっぽんワチャチャの女装オジサンこと、前田Matonさんが脱退されました。

すた:え? そうなんですか? どうして?

Mi代:理由は述べられていませんが、個人的な理由だそうです。話し合いを重ねたけれど、そのような結論になったとのことでした。前田Matonさんの企画で、私たちのカウンセリングルームに来ていただいたので他人事には感じなくて。にっぽんワチャチャでは長く活躍していただきたいと思っていたので、私にも何ができることがあったのではと考えてしまいます。そんな考えは、不遜かもしれませんが。
もちろんMatonさんの決断ですし、何か理由があったと思います。そして一般人に戻るということなので、今後の人生を無事に過ごして頂くことを願います。

すた:でもMatonさんが来られたとき、Mi代表は本人にそれっぽいことおっしゃっていましたよね。脱退する可能性について予想されていたのじゃないですか?

Mi代:うーん、そのあたりは難しいです。「予想していました!」と言ってしまうと、私がまるで預言者みたいになってしまう。それはカウンセラーとしては好ましくないので言えません。また、そういう可能性がみられたとしても、Matonさん個人の内的なテーマに踏み入る話であり、個人情報なので言えないのです。

すた:歯切れが悪いですね。

Mi代:はい、どうしてもそのあたりは倫理的なことがあるので言いにくいですね。とくにアイドルの方がグループから脱退する数か月前に、その人の精神状態を心理テストで見ていたといったら、それだけで興味本位に分析し始める人もいるでしょう。そこは注意したいです。
ただし一般的な話としては、カウンセリングや心理テストをして、そのときのこころの状態や、今後こうなるのではと予想があったとしても、相手に伝えられることは、ほんの一部なんですよね。100ぐらいわかったうちの、10言えるかどうかです。あとはいろいろな解釈の仮説として置いておくしかない。もちろん、精神科の先生と協力するときには診断名を決めるための情報が必要なので、そのときは明確に伝えます。
それ以外は、検査結果で不明確だけども経験上「こうなるかもな」と予想されることがあっても言わないでしょうね。まだ実現化していない内容だと。予想を伝えてもイタズラに不安を掻き立てるだけにもなる。なので言わずにおくこともあります。どの情報を伝えて、どの情報を伝えないかは、とても迷うところです。相手のためを考えると、とくにそうなります。

すた:占いだったら、ハッキリ言いますが。

Mi代:そこが占いとカウンセリングの違いでしょうね。前田Matonさんに「あなたは何か月後に人との別れを示す相が出ている」とか。
でもカウンセリングでは予言めいたことをいうのは避けます。逆に言えば、「カウンセリングを受けないと絶対にこうなります」という話をするカウンセラーがいれば、そのカウンセラーは怪しいと思います。未来のことをカウンセラーが見通せませんから。もし未来を予知するカウンセラーがいたら、そのカウンセラーは万能感に侵されていて、自分自身が見えなくなっている危険性もあります。
カウンセラーとして今後の予想について話すなら「カウンセリングを受けると予後が良いかもしれないけれども、それは方法のひとつなので。ご自身が望むのであれば、引き続きカウンセリングを受けてください」という考えは伝えるかもしれません。カウンセリングは本人が未来を選択していった先にあるという考えです。カウンセラーではなくて、本人が未来を作っていくので。

すた:でもMatonさんの脱退はびっくりですね。これからワチャチャはどうなるんでしょうね。

Mi代:応援する立場としては気になります。地下アイドルは大手の芸能事務所と違って、給与体制も整っていないし、サポートも少ない。しかも人気度が直接、自分の収入に跳ね返ってくる。そのような状況のなかで、アイドル活動をします。
にっぽんワチャチャはメンバーが生活のためのバイトをしていない、珍しいグループだとリーダーの遠藤Nozomiさんが仰っていました。ほかの地下アイドルグループは、メンバーはバイトをしながらアイドル活動をしているのだと。若手お笑い芸人さんもそうですね。ただし前田Matonさんは、バイトをしていると仰っていました。その辺りは、かなり苦労されていたかと思います。
前田Matonさんは、女性のアイドルグループの中に、女装した男性として入っていました。これはかなり他のアイドルと異なる特徴です。にっぽんワチャチャの個性を際立たせる要素だといえます。しかし一方で、深層心理学的にみると、そういった異質な存在というのは、周りの人からの影を引き受けることになりやすいです。他の人が抱えている不安や不満、そういったネガティブなものをMatonさんが担ってしまう。武道館ライブのような大変な目標を実現するには、当然、スタッフもメンバーも多大なストレスを抱えます。その思いがどこに行くかと考えたとき、Matonさんのような不器用さがあって、異質な人に向いてしまいます。もちろん、これはいじめられていたとか、そういった話ではありません。Nozomiさんも揉めて辞めたとか、問題を起こしたというわけでもなく、辞めることになってからもメンバーといつものように話していると仰っていました。
ではどういうことかというと、Matonさんがいることで、メンバーもスタッフも支えられたり、ガス抜きができていた部分はあったかもしれない。それはMatonさんが抜けたときに、強く感じるかと思います。たとえば社長の一平さんは、自分の個人チャンネルで、Matonさんとは話が合うと仰っていたので、脱退は一平さんにとっても痛手になるのではないでしょうか。Matonさんにはきつく当たっている部分はあったけれども、そこには甘えと期待といろいろな思いがこもっていた可能性もあります。Matonさんは影でメンバーやスタッフを支えていたのではと思います。
どのような集団でも影を抱えるメンバーがひとりは必要です。そうすることでグループの個性が際立ち、しかも動きが出るし、メンバー間の争いを避けられます。たとえば漫画のワンピースの「麦わらの一味」では、ウソップがその役目ですね。ウソップがいない麦わらの一味は「何か」動きが硬くなってしまう。ガス抜きができなくなるので。
今回はMatonさんが最終的に決断した内容なので、私のような部外者には止められないし、またMatonさんにも、何らかの事情があったと思います。ただし応援していた立場としてはショックです。今風の言い方であれば、私はMaton推しだったので。

すた:にっぽんワチャチャがどうなるのか心配ですね

Mi代:それは気になりますね。グループを取り巻く人間関係のバランスが揺れる可能性はあります。異質な要素の人が減ったことで、逆にグループが先鋭化する可能性もあります。ただしそこはわかりません。どう乗り切るか見守りたいと思います。

すた:聞きながら思うのですが、変な例えかもしれませんがMi代表がアイドルグループを作ったら、どんな風に育てますか?

Mi代:私はアイドルグループを作ることに関しては向いていないと思います。いわゆるビジュアル的なかわいさとか、カッコ良さとか、いわゆる外見的にどう見せるかについては専門外なので苦手です。できるとすれば、ショーとしての面白さを追求するための素材を提供するかもしれません。深層心理学的にはこんあ話があると。また、メンバーにプロのエンターテイメントを理解してもらうために、海外のショーなどをみさせて「このレベルを目指しなさい」というかもしれない。高い質のショーを実際に見聞きしておくと、自分たちの質を上げることにも繋がるので。

すた:Mi代表らしいです。でも人によっては、そのレベルを目指せと言われても、プレッシャーになると思います。

Mi代:なるべく早い段階で「プロとはこういうものだ」と知ってくことは大切だと思います。走り出してしまったら、途中で修正するのは難しいので。中途半端な活動をしてしまうよりも、しっかりとプロになることを目指すほうが良いと思います。

すた:その話を聞いていて思ったのは、最近の男性アイドルの芸能事務所についての話です。パフォーマンスとしてはかなりレベルの高いエンターテイメントを提供していたと思うのですが。ああいう事件についてMi代表はどう考えるのですか?

Mi代:そうですね、ああいう時事問題は私はあまり言わないようにしています。というのも、当事者がまだ大変な状況の最中にいるので触れにくい。
もちろん問題になっている行為を受けた人たちがいます。それと同時に大勢のファンもいます。ファンを惹きつけたエンターテイメントを作り上げてきたスタッフもいます。カウンセラーが難しいのは、そのどの立場の人からも、カウンセリング依頼を受ける可能性があることです。どの立場にいる人であっても、必要であればこころのケアをする。そうなると断定的な意見を言うのは難しい。
ただし言えることとしては、私のような深層心理学を学ぶ立場としては、光と影の部分をどちらもしっかりと観なければならないと考えています。影の部分が表に出ると光が見えなくなる。光ばかりみると影が見えなくなる。どうしてもマスコミなどで流れるニュースは光か影か、一方的な観点から報道される傾向があります。光と影は大手マスコミにもありますし、テレビ局にもあると思います。大手マスコミやテレビ局の光が弱まってきたため、余計にそれまで光によって隠れていた、影の部分が表に漏れ出てくるようになったのかもしれません。抽象的な言い方ですが。
今後はマスコミやテレビ局が隠していた影の部分、いわゆる否定的な情報が、さらに出てくるかもしれません。もちろん、これは先ほどの言った予言の話と同じで、あくまで可能性であり、私の仮説です。でもこの辺りは予言と言えるほど大したことではなく、多くの人が予想していると思います。
今回、海外のメディアが始めに報道したときは、既存の国内メディアは黙っていました。SNSでは大きな話題になっていましたが。そして国内メディアが無視できない状況になってから、ようやく報道を始めた。国内報道のあと事務所が対応し、そのあとスポンサー企業が動き出す。すべて後手です。
今回の事件は、私のような素人でも数十年前から噂を聞いたことがある内容でしたし、一度裁判で判決も出ている内容です。しかし、ある意味で社会の大多数が知りながらも黙っていた。そう考えると、かなり根が深い問題です。日本の社会全体を考えないといけないので。

すた:Mi代表の態度は誰かを責めるとか、悪を追求するとか。そういう態度ではないので、やっぱり歯切れが悪くなりますね。もちろん、私も誰かを一方的に断罪するのは違うと思いますが。

Mi代:そうですね。現状の報道では一人、もしくは会社を責めるという状態です。しかし視聴者や当事者たちはすでに分かっているように、業界関係者みんなで暗黙の了解という形で協力し、続いていた事態です。業界だけでなく社会全体が課題と向き合わなければならない。
業界の中には「自分も似たようなことをしていた」「ほかにも似たような出来事があるのを知っている」という人もいるかもしれない。でも組織や社会で隠されていることを表に出す人は少ないですし、業界の文化を変えるのは難しい。先ほど言ったように「沈黙していた社会」全体となると、範囲が広すぎます。社会全体への対応となると、国で法律を作って規制するとか、被害者を補償するとかそういう仕組みを作るという話になります。それも対処方法の一つではありますが、「黙っておく」という文化全体を変えることは難しい。つまり「わかりつつも黙っていた」という人たちの意識や文化を変えるのはなかなか大変です。
そのなかでカウンセラーとして出来ることを考えます。それはカウンセリングを受けたいと思っている人が、カウンセリングにつながりやすくなるようにすることでしょう。実際に相談に来られたら、しっかりとカウンセリングをすることです。それが結局、悩みを抱えているクライエントのためになると思います。

すた:クライエントのために何ができるかですね。

Mi代:そうですね。

すた:じゃあ、変な話ですが、もしMatonさんが来られたら、カウンセリングの依頼を受けますか?

Mi代:どうでしょうね。本人が悩みを抱えていて、どうしても望むのであれば受けると思います。しかし、その代わり私がにっぽんワチャチャについて語ることはやめるでしょうね。外からエンタメとして楽しめることはできなくなるので。

すた:それはほかの芸能人の方が来られてもそうですか?

Mi代:そうですね。私が既に知っていて、ある程度の印象を持っていると、本人と私が持っている印象との間に大きなギャップが生まれます。それではクライエントの気持ちに寄り添えない。私にとって大切なのは、クライエント自身がその出来事をどう見て、どう感じ、どう思っていたかです。クライエントの立場を尊重したいから、一旦、その人が外で見せている作品や表現とは距離を取るかもしれません。もちろん、当人が見てほしいというのであれば、観ることもあるでしょうが。

すた:楽しめなくなるなら、断るという方法もあると思いますが。

Mi代:私はその辺りはドライですね。クライエントのためであるなら、私の趣味活動を制限するぐらい、とくに気になりません。なので一般にすごく有名な人が来ても、その人を「有名人!」としてみるのではなく、「有名人という役割がある○○さん個人」としてみますね。有名人という社会的評価はあくまで社会的なペルソナなので。私の仕事はペルソナの向こう側をみる仕事です。

すた:そういえば、ここのオフィスの隣にある区で、にっぽんワチャチャの鈴木Mobさんをテーマにしたケーキが売っているそうですね。

Mi代:そうです! 菓子工房シュクルリさんですね。チョコミントがおいしい店みたいで、鈴木MobさんもYoutubeで絶賛していました。

すた:中立性を保ち、しかもドライな立場を守るカウンセラーのMi代表なら、そういったファンのような行動はとらないですよね。たとえ甘党のMi代表であっても。

Mi代:というか、ケーキ屋さんを支持することと、中立性を保つ態度は私の中では衝突しません。また、どのような店か現場を知っておくことは見識を深めるので、味のリアリティを経験することは大事だと思います。

すた:それでは私はケーキをお願いします。どんなのか楽しみですね。

Mi代:わかりました。それではちょっと行ってきます。(とオフィスを出ていく。ほくそ笑む、すたっふ)


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