夏のレプリカ/森博嗣

封印された夏の日の記憶!
眩い夏、不可解な誘拐事件、蘇る過去
真実は、偶数章だけで明かされる。
T大学大学院生の簑沢杜萌(みのさわともえ)は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧(もうろう)とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑と死と使途』と同時期に起こった事件を描く。

シリーズ7作目。そしてシリーズの中ではかなりの異色作。

というのも、この作品の中では犀川先生も萌絵もほとんど出てこない。萌絵は中盤くらいで出始めるが、犀川先生に至っては本当に少ししか出番がない。これが前作「幻惑の死と使途」と繋がっていて、夏のレプリカで起こる事件と幻惑~で起こる事件は同時期に起こっていたため、どんな事件にも首を突っ込みたがる萌絵も幻惑~の事件の方で頭がいっぱいだから中盤まで出てこない。代わりに萌絵の親友である簑沢杜萌が今作の語り手である。


トリックというよりも、人間描写が濃いタイプの作品だった。前作の事件がかなり派手であった対比のためか、今回は事件自体が地味だしなんかジメジメしている。トリックもシンプルといえばシンプルだし、多分シリーズの読者ほど気づけないトリックだと思う。でもこの作品は杜萌と萌絵の対比だったり、キャラクターの成長や変化がメインの話であって、ミステリとか事件はメインでない感じがする。

でもわたしはこの今作めちゃくちゃ好きだ。読み返してみてやっぱり好きな雰囲気の作品だったのであっという間に読み終えてしまった。切なくてどうしようもなくて湿度の高い感じがすごく好き。本当に夏がピッタリの話。

あと今作の語り手である杜萌のキャラクターがすごく魅力的なのもいいよね。ザ・二次元的なキャラ造形である萌絵と比べると、同じ天才でありながらすごく人間臭いところが好きだ。特に終盤の杜萌と萌絵のチェスのシーンはすごく描写が綺麗というか鮮烈で、グサグサ刺さる。めちゃくちゃエモーショナルなシーンだった。


なんかあっという間に7作目まで読んでしまい、残り3作になってしまった……。どの作品読み返しても面白くて良いなあ。

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