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カニ
7月7日
晴れ。例年雨になることが多い七夕だけれど、今年は織姫と彦星も久しぶりに会えるだろうか。
そういえば2日前に蟹座生まれの母が誕生日を迎えた。
蟹座とは不思議なことに昔から縁があって、心を開いて深く仲良くなることが出来るのはなぜか蟹座の人がとても多い。
蟹といえば子どもの頃に学校の階段で偶然カニを見つけたことがあった。
小さくて可愛くて、そのまま教室に持ち帰り、誰にも見せないままハンカチにくるみ、それを大事に手に持って授業を受けた。
カニの様相が次第に変化したのはいつからだろう。最初は小さな白い泡を出し、それは時間と共に増え、ついには生臭い異臭を放ち始めた。
授業はまったく身に入らなかった。
ただカニを見守り続け、終業のチャイムと共に全速力でトイレへ駆けた。
手の中のハンカチをそっと開くと、カニは泡の中でほとんど動かずぐったりとしている。
どうしよう…。
トイレには他に誰もおらず、暗く湿ってひんやりしたその空間に、私と弱ったカニだけが途方に暮れて対峙していた。
もうすぐ、次の授業が始まってしまう。
苦渋の決断の末、私はある行動に出た。
そして石けんで手をゴシゴシと洗い、急ぎ足で教室へと走った。
誰もいない静かなトイレ。
そこには白い陶器の手洗い台があり、哀れなカニと汚れたハンカチだけがひっそりと放置されていたのだった---。
ギリシャ神話によると蟹座は英雄ヘラクレスに踏みつぶされた巨大カニを女神へーラーが悼んで星座にしたことがその由来なのだとか。
そんな蟹座生まれには、親切で家族思いに溢れた人が多いらしい。
私が捨てた小さなカニも、今は夜空の何処かできらめいているだろうか。
そうであると良いのだけれど。
空を見つめながら、あの頃の記憶にそっと思いを馳せる。
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