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旅の理由|詩

田んぼに畑
竹藪、あばら家、錆びた車
侘しい景色の間を
やけに目立つ黄色に緑の列車が走る

たったの二両
コトコトと
かわいらしい音をたてながら
枯れた景色を通り抜ける

無人駅の向こうには
かろうじて
庭畑のところにぽつんと一つ
洗濯物が干してある

風に揺れる
白い布は本来の白さよりも
少し光って見えたのだろう

姿は見えないけれど
人の暮らしがある

それだけで
この先に進んでも大丈夫だと
不安を一つ引き算できる

どの駅で降りるのだっけ
見知らぬ地名は
呪文のように聞こえてくる
それだけ遠くへ来たのだ

まもなく
誰も知らない土地に到着いたします

この男は
父親はなく
母親と二人で昭和を生きました

いつも人の表情と言葉を伺って
安全か危険か観察していました

おしゃべりにはご注意ください
迂闊に声を出すと
怖い大人たちに見つかってしまいますから

マナーや法律なんてものは
隠れられる押し入れに比べれば
なんの頼りにもならないものです

線路脇の畑にぼつぼつと残された
黄色くなった白菜
そんな母子が昭和に居りました

お降り口は左側です
いつでも降りてよいのです

けれども

終点まで
行ってみても
よいでしょうか

白い布が少しだけ
光って見えたので

2024/1/27

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