見出し画像

(美達の蔵出しオススメ) 146 『世界地図の下書き』 朝井リョウ 集英社


画像は文庫版です

※初期のレビューです。今回、初出です。ご留意下さい。

近年の直木賞受賞者で、私が人にすすめられる数少ない作家(あとは桜木柴乃さんとか)の朝井リョウさんの最新作です。
舞台は児童養護施設だったので迷わず選びました。
交通事故で両親を亡くした太輔たいすけの他に、淳也じゅんや美保子みほこ麻利まりという4人の小学生と高校生の佐緒里さおりが中心となります。
親のいない子供たちが、自分の生きる場所を求めて、日々のいやなこと、楽しいことを経験しながら成長していくという物語ですが、ただのハッピーエンドではありません。
淳也と麻利の兄妹に対するいじめ、それに対して保護者であるような佐緒里の「逃げればいい」という発言、最後までいじめることをやめない男の子、など、予定調和的ではなく、かつ、朝井さんらしい洞察力(この人、本当に年齢を鑑みても鋭いですよ)にあふれています。

朝井さんの筆力以外でも感心するのは、就職している点です。
この人、舞い上がることのない人で、常に冷静に自分が社会でどこにいるのか、自分とはなにほどの存在か、把握している気がします。
 思慮深く、自分を自分でプロデュースしている人でもあるのです。(本当に1989年生まれなのかな、と敬意さえ抱きますね、地に足のついた生き方は。)

たまたま、雑誌のインタビューで、本作品を語っていました。
それによれば、「今いる場所ではない場所で生きることを選ぶ」話を書きたかったそうです。
生きる場所を変えなければいけなかった子供たちが、それでも毎日、ちゃんと生きていることを描きたかったと強調していました。

ここから先は

1,659字
書評、偉人伝、小説、時事解説、コメント返信などを週に6本投稿します。面白く、タメになるものをお届けすべく、張り切って書いています。

書評や、その時々のトピックス、政治、国際情勢、歴史、経済などの記事を他ブログ(http://blog.livedoor.jp/mitats…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?