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実写とゲームが重なるところ【実写ADVの系譜・番外地】

本記事では実写ADVムービーゲームについて、「ポリスノーツ」「Detroit: become human」「ヨーロッパ企画のFlash」「Her Story」といったゲームを題材に話を進めます。主な内容はインタラクティブシネマの由来/シネマティックゲーム/ヨーロッパ企画/現代の実写ADVの4つ。

なおこの記事は、その前回の記事からあぶれた余談部分として話しており、上の4つの内容がそれぞれ語られます。そのため、本筋についてはこちら(実写ADVゲームの系譜~やるドラ・ダブルキャストからデスカムトゥルーまで~)を参照。

以下の目次から興味のある内容に飛ぶのもあり。章はそれぞれ独立しています。

インタラクティブシネマ(ムービー)の由来

前回、インタラクティブシネマとは…の説明にあたるところで、実は「現在インタラクティブシネマと呼ばれるものは、映画にこのQTEを導入したもの」というふうに、現在に限定して説明していました。これにはやや理由があって、「インタラクティブシネマ(ムービー)」という言葉や発想自体は、QTEの導入以前から存在したものだったためです。

小島秀夫「ポリスノーツ」
私の観測しうる限り、インタラクティブシネマという語が初めて用いられたのは、1994年発売の「ポリスノーツ」、さらに言えばその移植版1996年発売のPS版「ポリスノーツ」です。

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オリジナルであるPC-9821、3DO版では確認できない「INTRACTIVE CINEMA」という語がパッケージに書かれています。これはこのゲームの製作を行った、小島秀夫率いる小島組(現・コジマプロダクション)の思想が大きいところ。小島秀夫は映画的手法によるゲームに重きをおいており、「ポリスノーツ」はそれを追求した「メタルギア」「スナッチャー」の流れにおける一つの集大成とされます。「ポリスノーツ」は、PC向けのポイントクリック・アドベンチャーなのですが、その考えが色濃く見えます。

コメント 2020-06-27 164256

「ポリスノーツ」のゲーム画面。画面内にコマンドウィンドウは表示されず、該当の人物をクリックすることでコマンドが現れる。小島秀夫は、このコマンドウィンドウの撤廃映像と物語をメインに据えることによって映画的なゲーム、Intractiveな映画を目指したのだと思われます。

ちなみにストーリーは、画面下に字幕を表示させながら、アニメーションで進行。この手法は小島秀夫の次作である「ときめきメモリアル ドラマシリーズ vol.1 虹色の青春」に継承されます。左が「ポリスノーツ」、右が「虹色の青春」。

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これらは直接には現代のインタラクティブシネマというよりも、前記事で紹介した「やるドラ・ダブルキャスト」やそれと同じ手法を持つ「シュタインズ・ゲート エリート」に繋がる描き方と言えるでしょう。

Tex Murphy Series「Under a Killing Moon」
しかし時同じくして、1994年。同様にInteractive movie(movieとなっているが、cinemaと同義の発想)を冠したゲームが存在します。それが海外ゲームの、「Under a Killing Moon」

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こちらMuseum of Computer Adventure Game Historyというサイトから発見した、Under a Killing Moon発売当時のパッケージ裏です。このサイト、古いコンピュータ・アドベンチャーゲームのパッケージ・CD・チラシを大量にアーカイブしていて、インターネットには色々あって面白い。私もこのゲームを調べるにあたって、初めて知りました。リンク

環境によって読みづらいとは思いますが、この2段落目に「This interactive movie allows you to explore every square inch of your -D environment.」とあります。このゲームも、先程の「ポリスノーツ」と同様のポイントクリック・アドベンチャーで、どうやら「画面のすべてのものをクリックして調べることができる」というのを売りにしているよう。続く文章にも、デスクに潜ったり、引き出しを開けたり…と書かれています。
それでは、Interactive(ゲーム的な部分)はいいとして、どこがMovieなのか。それは、これが(だいたい)実写な雰囲気で作られているというところにあります。

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プレイ動画を見る限り(これも発掘した。インターネットはすごい)、登場人物は実写で作られていますが、モノはすべて3Dポリゴンで構成されています。前編で紹介した「RAMPO」に似た作りだと考えるとわかりやすい。しかし、先程見た「ポリスノーツ」の方が現代的には理解しやすい作りのゲームであるため、いざ古いオーソドックスなポイントクリック型の画面を見せられると、かなり新鮮に映ります。今見るとチープな作りではあるが、これが「MYST」(本格3Dゲームの先駆け、以下画像)から1年で作られたというところを考えると驚き。

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「Under a Killing Moon」、あらすじもなかなかぶっ飛んでて面白いので、ぜひ興味を持った人はWikipedia(英語版)のリンクを張っておくので、参考にしてください。

インタラクティブシネマ(ムービー)の初出はこのあたりで、それぞれ違う面からそう呼ばれていることがわかります。「ポリスノーツ」は、ゲーム画面を廃して映像主体の見せ方にすることによる、映画的手法から。「Under a Killing Moon」は実写映像を用いるという手法から。ただしいずれもQTE以前のものであるため、一般のADVの枠からは離れていないようです。いずれにせよ、現代のインタラクティブシネマとは定義を異にするものだという感触でした。

ただしこの小島秀夫の映画的手法は、このあと形を変え、ゲームの第一線を突き進み続ける。次の章で扱う、シネマティックゲーム、ゲームのフォトリアル的演出がそれです。下は「DEATH STRANDING」より。

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シネマティックゲーム

インタラクティブシネマとシネマティックゲームがどう違うのかという話。語感的には同じように見えますが(双方向=ゲーム的なシネマvsシネマ的なゲーム)。おそらく定義もはっきり定まっているわけではないとは思うのですが、ここではQuantic dreamの作品を例に説明していきます。

Quantic dream「Detroit:become human」
Quantic dreamは、前記事のQTEの項でも「Heavy rain」で紹介しました。他にも「BEYOND: Two Souls」、現在は「デトロイトビカムヒューマン Detroit: become human」で最も有名な会社。一般にシネマティックゲームもしくはシネマティックなADVなどと言った場合、同社のゲームのような要素を持つ作品であることが多い。ここでは以下「デトロイトビカムヒューマン」の画像を用いていきます。

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シネマティックゲームは、光の当たり方や人物の造形など、細部までフォトリアルに描かれた3DCGがこう呼ばれます。よってこのときのシネマティックとは、映画=現実の”ような”描写のことであって、実際に現実の実写を取り込むということではありません。しかし現在、ゲーム全般で主流なのはこちらの表現であり(もちろん実写によるゲームが主流なわけがない)、これがADVが衰退した一因でもあります。

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3DCGによって、綿密な描写が可能になり、QTEを代表する様々な処理が並列で行われるようになりました。そのために、もはやADV=物語をゲームに入れ込むことは当たり前に。現在ADVというジャンルはかなり下火ではありますが、そこで培われた精神はRPG、ACT、FPSなど、ジャンルを問わず偏在しています。

このシネマティックな極めて映画のような描写、フォトリアル指向のゲームは、最近のもので言うと例えば前述の「DEATH STRANDING」「LAST OF US PARTⅡ」、日本のゲームで言うと「JUDGE EYES」など、多岐に及びます。

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最初の問いに立ち返って、インタラクティブシネマとシネマティックゲームの違いをまとめると、インタラクティブシネマは「実写表現に映画のまま、ゲームの成分を加えたもの」シネマティックゲームは「3DCGを実写的なフォトリアルに近づけて、ゲームにすること」と言えるでしょう。

ヨーロッパ企画

日本で実写のムービーゲームはほとんど例がなく、前記事で「日本初のインタラクティブシネマ」として「デスカムトゥルー」を紹介しました。ただし全編ムービーで作られた日本製のゲームに一つだけ心当たりがあります。それがヨーロッパ企画が公開している実写ゲーム、Flashゲームです。

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ヨーロッパ企画とは、京都で主に活動する劇団。ヨーロッパ企画はかなり以前から、実写Flashゲームをサイトに公開していて、これは私のお気に入りの「名探偵スワー」という作品。QTE的な時間制限もあり、選択肢も豊富で、かなり本格的に(?)作られています。

出演者はヨーロッパ企画で構成されており、諏訪部、酒井、永野、喜多、角田など、そのうち名前も覚えだしてしまう、癖が強い。基本的に一発ネタのような物が多いのですが、それを本気で作品としてリリースするまであるのだから、プロなのでしょうね。

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上は来た人物が喜多か喜多じゃないかを当てる、「喜多が来た」。他にも、「偶然にも最悪な永野~待ち合わせ編~」「着せ替えみほたん」「愛の歌が溢れ出てきて止まらねえんだよ」「登人」「眼鏡がないと家に帰るのがコンナン」などがおすすめです。

”たった一つの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その上、眼鏡がないと家に帰るのがコンナン!”

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ちなみに名探偵コンナンくんは、デイリーポータルZの提供で続編が作られており、現在「コンナンくん4」まで作られています。要チェックだ(リンク)。

説明だけではかなりバカらしく見えますが、くすりとくる笑いが癖になるゲーム群。今確認した限り全部で36作ありました。これを実写ゲームと分類していいのかわかりませんが、一応Flashとは言えど、日本で作られた貴重な実写ムービーゲームの一つでしょう。おすすめです。またiOS向けに「ツッコマニア」「ツッコマニア2」というゲームも発売されていますので、ここまでで興味持った人は検索してみると気にいるかも知れません。

以下のサイトで、芋づる式に、ヨーロッパ企画のすべてのゲームにアクセスできます

ただしFlashゲームは2020年12月を持ってサービスが終了するため、今後記事を見られる方のために、ヨーロッパ企画のゲームを大量にプレイしている、月ノ美兎というVTuber(配信者)の実況プレイ動画も以下参考に貼っておきます。

このプレイリストは私が管理しているため、逐次更新していきます。

現代の実写ムービーゲーム

最後にインタラクティブシネマ以外での、現代の実写ムービーゲームを紹介します。といっても、類似作が少ないためここでは私の知る3作品、そのうちの主に「Her Story」を軸に話を進めます。

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「Her Story」は、上のようなビデオクリップを観ていくことでゲームが進行していくゲーム。
彼女は取り調べを受けているのですが、プレイヤーは彼女の名前も「なぜここにいるのか」もわかりません。おまけに各クリップは数秒~1分ほどでできており、時系列バラバラ。これを、あるクリップで得た単語(例えば、「ザ・ロック」という店名)を、ゲーム内の検索窓に打ち込んでいくことで、クリップ同士の内容をつなぎ、真実に近づいていくというゲームです。

ゲームは情報を与える機能と回答を受け付けるという役割に徹して、ゲームの進行および推理の過程は、10割プレイヤーの側に託されます。かなり変わったシステムのゲームなのですが、歯ごたえもあり、推理ゲーム好きにはおすすめです。下は「Her Story」の後継作、「telling l!es」。

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「telling l!es」も断片的な映像を見ることで推理を進めていく、という「Her Story」と同様のゲームですが、こちらのほうがかなり複雑です。こういったインタラクティブシネマ系に分類されない、変則的な実写ムービーゲームはSteamでさえ少なく、この続編である「telling l!es」と別会社が制作している「jessika」(2020年6月現在未発売)を含め、3つしか確認できません。かなり面白いアイデアに映るのですが、なかなか売れる!フォーマットでなく、手間もかかってしまうのでしょう

いずれにせよ、現代において(かなりマイナーでありながらも)遷移している実写ゲームの新しい形として、そのアイデアの一つ「Her Story」を紹介しました。もし古いタイプのポイントクリックADVにも、インタラクティブシネマにも分類されず、かつ「Her Story」系にも分類されないゲームをご存じの方は、私のTwitter(リンク)までご連絡下さい

20200629追記
一つ思い当たりました。Steamより百恩互娱が製作・配信している中華ゲーム「记忆重构/Memories」。こちらは実写映像と脱出ゲームの融合形です。詳しくはリンク

20200813追記
Quantum Break、Steamより。詳しくは知らない。実写とゲームが融合した新感覚エンターテインメントと聞いています。詳しくはリンク

総括

ここまで読んだあなたは偉い。あなたはここまでで5,500字読んでいます。手短にまとめましょうね。

小島秀夫のポイントクリック・アドベンチャーから始まった「インタラクティブシネマ」という言葉はその中身を変えて、現代では新しいゲームの形として受容されています。またそのゲームにおける映画的演出は、実写のみならず、3DCGの技術を利用して、さまざまなゲームに取り込まれてます

一方実写ゲームも、一部愛好家たちの間で、ほそぼそと作られ続けていました。現代でもヨーロッパ企画のゲームや「Her Story」といったものに形を変えつつ、生き残っていたり、本筋で述べたとおりインタラクティブシネマという媒体としてメインストリームに進出しようとしています。

ここまで説明にかなりの時間と文字数を要してしまいましたが、これもひとえに私の愛と、このようなマイナーなジャンルにも語られるべき歴史があるということです。ここで紹介したゲームは、決して誰もが知っているゲームではありませんし、これからもなり得ません。ただしこの「実写とゲームの重なるところ」、この稀有な点が存在し、これまでも少なからぬ人々に愛されてきました。技術の進歩とともにそれに近づくものもあれば、執拗に実写であることにこだわるものもあり。ここまで読んだ方はそれを知ったかと思います。

この記事を通して、その両者の重なる表現について、新しいゲームを触れるきっかけになったり、もしくは好きな人がもっと深くを知る助けになったり、そのように活用されればいいなと思っています。

長くなりましたが、私からは以上です。以下に、この本筋の記事である「実写ADVの系譜(前編・後編)」のリンクを張っています。

もしかして前後編も番外地もよみました?あなたは15,000字超読みました。
本当にありがとう。

おわり

前後編・番外地で言及したゲーム一覧
「かまいたちの夜」「弟切草」「学校であった怖い話」「晦-つきこもり」「夜光虫」「街 〜運命の交差点〜」「428 〜封鎖された渋谷で〜」「黒ノ十三」「鈴木爆発」「1999ChristmasEve」「ある日夏の日、山荘で…」「ひとかた」「Second Anopheles」「相棒DS」「交渉人DS」「DS湯けむり殺人事件」「√LETTER」「CLOSED NIGHTMARE」「RAMPO」「やるドラ ダブルキャスト」「ひぐらしのなく頃に」「シェンムー」「Heavy Rain」「LATE SHIFT」「THE BUNKER」「COMPLEX」「ブラックミラー:バンダースナッチ」「デスカムトゥルー」「ポリスノーツ」「メタルギア」「スナッチャー」「ときめきメモリアル ドラマシリーズ vol.1 虹色の青春」「シュタインズゲート エリート」「Under a Killing Moon」「MYST」「DEATH STRANDING」「BEYOND: Two Souls」「Detroit: become human」「LAST OF US PART Ⅱ」「JUDGE EYES」「名探偵スワー」「喜多が来た」「偶然にも最悪な永野~待ち合わせ編~」「着せ替えみほたん」「愛の歌が溢れ出てきて止まらねえんだよ」「登人」「眼鏡がないと家に帰るのがコンナン」「コンナンくん4」「Her Story」「telling l!es」「jessika」「记忆重构/Memories」

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